この話いるのに消えてた・・・思い切り消しすぎ・・・自分
―――キュキュッ
板張りの床の上を素足が走り、「ヤーーーーーーーッ」と鋭い掛け声が、見上げる程に高い八角形の天井に響く。
全国剣道練成大会。
広い会場の中に現れた幾つもの競技場の四角い枠の中で、全国から選りすぐられた剣士達が鎬を削っていた。
―――パーーンッ
「一本っ、小手ありっ」
弾ける様なお音とともに審判員の判定の声が上がる。
「あ〜、あれは負けるな」
何とか勝ちあがった順也の3回戦。
その競技面から一番近い観客席で、西原と一緒に見ていた順也の兄の翔也はそう呟くと座っていた席から立ち上がる。
「車を回して来る・・終わったら後は親父と兄貴に任せて順也を関係者出口の前まで連れてきてくれ」
「でもまだ始まったばかりだし・・・最後まで観て行かないんですか?」
試合会場から目を離さないまま、少し驚いた西原は思わず聞き返すが、
「初戦の相手とは格が違うからな、どうせ今日の順也じゃ歯がたたない」
オマエもわかってるだろうという翔也の流し目に黙るしかなかった。
相手は、去年の3位入賞者だった。
中学生とは思えない大柄でがっちりとした身体から繰り出される重そうな刀筋を受ける度に、 防具を着けていても小柄で華奢な順也の身体がグラリと揺れる。
乱れる間合いと足裁き。
どんな刃筋でも綺麗に受けて流し自分の攻撃へと変えてく、何時もの順也の剣道とは似ても似つかない無様な試合だった。
「どっちにしても、もうフラフラじゃないか・・あいつの我が侭に負けて連れてきたけど、もうドクターストップだよ」
医大生の翔也はそう言って再び試合会場に背中を向け、西原も一瞬立ち去る翔也に視線を向けた。
――――パーーーンッ
「面一本っ、勝負ありっ!」
その時、鋭い竹刀の音とともに審判員の声が上がり、二人が振り向いた先には竹刀を取り落とし、床に膝を着いてふら付く身体を支える順也がいた。
「ちっ、だから今日は寝てろって言ったんだ・・・おいっ西バカッ、直ぐに順也を連れてこいよっ」
そう吐き棄てるように言うと、翔也は声も無い西原を置いて足早に立ち去ってしまう。
傍で付き添っていた、父親と長兄の智也が立ち上がれない様子の順也を助け起こそうとするが、順也は首を振ってそれを拒否する。
そしてふらつく足で立ち上がり、落ちた竹刀を広い帯刀すると試合後の礼法に従って一礼をすると試合場から退場した。
その場で崩れるように膝を着いた順也を、今度こそそこにいた智也が抱きかかえるように支えている。
早くあの場に行かなければいけない。
翔也の言う通りに順也を車まで運ばなければと西原は焦るのだが、座った観客席から動くことが出来なかった。
この結果は初めから分かっていたことだった。
自分が考えもなく順也の身体を奪って傷つけ、それが原因で高熱を出した。
昨日は好転したかに見えた体調も昨晩からまた酷い高熱を出して、この会場にも西原が抱き抱えて入ったのだ。
無理を押して出ても実力伯仲のこの大会で勝ち抜けるはずがないと、本人も付き添った西原達も承知していた筈だった。
しかし、突きつけられた現実の光景は、想像していたよりもはるかに大きな衝撃を西原に与えた
体調を崩していなければ、この晴れがましい大会で勝利を手にしていたのは順也の筈だった。
自分の身勝手な行為が原因で、順也にどれだけのいらない苦しさを味合わせてしまったのか?
そ の取り返しのつかない大きに西原は痺れたように動けず、防具をつけたまま床に横たわる順也から目が離せなかった。
智也が面を外してやると順也の小さな顔が現れる。
遠目でも何時もより蒼白なことがわかるその顔が、何かを探すようにフワフワと振られた。
そして、横に付き添う智也が西原のいる観客席を指差し、順也がゆっくりとこちらに向けて首を巡らせる。
「西原・・」
多くの試合が行われている騒々しい会場の中で聞こえる筈の無い声。
でも、力の無い手をこちらに差し伸べた順也が確かに自分を呼んだ気がして、動かなかった西原の身体に電流が走った。
途端に金縛りが解けた身体に自由が戻る。
その瞬間に、一刻も早くうていた順也をこの腕で抱きしめたいという止めようの無い衝動が西原の背中を押した。
「順也っ」
周囲の人間が驚いてこちらを注目するのも構わずそう叫んだ西原は、踵を返すと競技場へ降りる階段へと走り出したのだった。
西原がその場所までたどり着くと、順也は既に気を失ったように眠っていた。
「翔也の車まで頼むな」
そう智也に言われて抱き上げた順也は、蒼白だったけれどそれでも満足そうに微笑んでいた。
「まったく皆に心配かけて・・負けたのに嬉しそうなんだから困るよな」
智也は呆れたように苦笑しただけだったけれど、閉じられた順也の瞳から白い頬に向かって涙の流れた跡が微かに残っている事を、西原は見逃さなかったのだった。
―――キュキュッ
板張りの床の上を素足が走り、「ヤーーーーーーーッ」と鋭い掛け声が、見上げる程に高い八角形の天井に響く。
全国剣道練成大会。
広い会場の中に現れた幾つもの競技場の四角い枠の中で、全国から選りすぐられた剣士達が鎬を削っていた。
―――パーーンッ
「一本っ、小手ありっ」
弾ける様なお音とともに審判員の判定の声が上がる。
「あ〜、あれは負けるな」
何とか勝ちあがった順也の3回戦。
その競技面から一番近い観客席で、西原と一緒に見ていた順也の兄の翔也はそう呟くと座っていた席から立ち上がる。
「車を回して来る・・終わったら後は親父と兄貴に任せて順也を関係者出口の前まで連れてきてくれ」
「でもまだ始まったばかりだし・・・最後まで観て行かないんですか?」
試合会場から目を離さないまま、少し驚いた西原は思わず聞き返すが、
「初戦の相手とは格が違うからな、どうせ今日の順也じゃ歯がたたない」
オマエもわかってるだろうという翔也の流し目に黙るしかなかった。
相手は、去年の3位入賞者だった。
中学生とは思えない大柄でがっちりとした身体から繰り出される重そうな刀筋を受ける度に、 防具を着けていても小柄で華奢な順也の身体がグラリと揺れる。
乱れる間合いと足裁き。
どんな刃筋でも綺麗に受けて流し自分の攻撃へと変えてく、何時もの順也の剣道とは似ても似つかない無様な試合だった。
「どっちにしても、もうフラフラじゃないか・・あいつの我が侭に負けて連れてきたけど、もうドクターストップだよ」
医大生の翔也はそう言って再び試合会場に背中を向け、西原も一瞬立ち去る翔也に視線を向けた。
――――パーーーンッ
「面一本っ、勝負ありっ!」
その時、鋭い竹刀の音とともに審判員の声が上がり、二人が振り向いた先には竹刀を取り落とし、床に膝を着いてふら付く身体を支える順也がいた。
「ちっ、だから今日は寝てろって言ったんだ・・・おいっ西バカッ、直ぐに順也を連れてこいよっ」
そう吐き棄てるように言うと、翔也は声も無い西原を置いて足早に立ち去ってしまう。
傍で付き添っていた、父親と長兄の智也が立ち上がれない様子の順也を助け起こそうとするが、順也は首を振ってそれを拒否する。
そしてふらつく足で立ち上がり、落ちた竹刀を広い帯刀すると試合後の礼法に従って一礼をすると試合場から退場した。
その場で崩れるように膝を着いた順也を、今度こそそこにいた智也が抱きかかえるように支えている。
早くあの場に行かなければいけない。
翔也の言う通りに順也を車まで運ばなければと西原は焦るのだが、座った観客席から動くことが出来なかった。
この結果は初めから分かっていたことだった。
自分が考えもなく順也の身体を奪って傷つけ、それが原因で高熱を出した。
昨日は好転したかに見えた体調も昨晩からまた酷い高熱を出して、この会場にも西原が抱き抱えて入ったのだ。
無理を押して出ても実力伯仲のこの大会で勝ち抜けるはずがないと、本人も付き添った西原達も承知していた筈だった。
しかし、突きつけられた現実の光景は、想像していたよりもはるかに大きな衝撃を西原に与えた
体調を崩していなければ、この晴れがましい大会で勝利を手にしていたのは順也の筈だった。
自分の身勝手な行為が原因で、順也にどれだけのいらない苦しさを味合わせてしまったのか?
そ の取り返しのつかない大きに西原は痺れたように動けず、防具をつけたまま床に横たわる順也から目が離せなかった。
智也が面を外してやると順也の小さな顔が現れる。
遠目でも何時もより蒼白なことがわかるその顔が、何かを探すようにフワフワと振られた。
そして、横に付き添う智也が西原のいる観客席を指差し、順也がゆっくりとこちらに向けて首を巡らせる。
「西原・・」
多くの試合が行われている騒々しい会場の中で聞こえる筈の無い声。
でも、力の無い手をこちらに差し伸べた順也が確かに自分を呼んだ気がして、動かなかった西原の身体に電流が走った。
途端に金縛りが解けた身体に自由が戻る。
その瞬間に、一刻も早くうていた順也をこの腕で抱きしめたいという止めようの無い衝動が西原の背中を押した。
「順也っ」
周囲の人間が驚いてこちらを注目するのも構わずそう叫んだ西原は、踵を返すと競技場へ降りる階段へと走り出したのだった。
西原がその場所までたどり着くと、順也は既に気を失ったように眠っていた。
「翔也の車まで頼むな」
そう智也に言われて抱き上げた順也は、蒼白だったけれどそれでも満足そうに微笑んでいた。
「まったく皆に心配かけて・・負けたのに嬉しそうなんだから困るよな」
智也は呆れたように苦笑しただけだったけれど、閉じられた順也の瞳から白い頬に向かって涙の流れた跡が微かに残っている事を、西原は見逃さなかったのだった。





