桜子のお抱え運転の瀬川さんが、順也を毎日、学校から西原の入院する病院まで送迎してくれる。
順也はそう決めて意気揚々だったけれど、本来ならそんな我侭は許される訳がなかった。
今日だけでも桜子の家に迷惑を掛けてしまっているのに、これから毎日だなんて、そこまで甘えてしまっていい筈がない。
絶対に他人に迷惑を掛けない。
順也の家族は皆順也に甘いけれど、それだけはいつも厳しく言われていた。
「お父さんっ!桜子姉さんがいいって言ってるからいいだろうっ?俺、毎日西原のお見舞いがしたいぞっ」
「でもですね、今日のお見舞いは特別で、次は土曜日だって、順也は昨日、お父さんとお母さんに約束しましたよね?夜に家から出た罰だから、順也もそれでいいと言っていましたよ?」
「んんっ!でも、やっぱり毎日がいいぞっ、駄目なら、もうお父さんと朝稽古しないぞっ!」
「はぁ・・まったく順也は反省していないですねぇ、申し訳ありません、桜子さん、一人ではタクシーを使っても心配ですし、私達が迎えに行ける時だけ瀬川さんにお迎えをお願いしてもいいですか?」
「まあ、お父様、瀬川は私がここに居る間は外で待っているだけですし、何でも無い事ですわ、お気になさらないでください」
しかし、仕事帰りにお見舞いに来てくれていた史也は、その我侭を意外な位にあっさりと許していた。
それは、駄目な事は駄目ときちんと叱る、必要な時には一番厳しい筈の、史也らしくない行動だった。
「順也、その代わりきちんと優希君の面倒を見てあげるんですよ」
「んっ!わかってるぞっ、ちゃんと面倒見るぞっっ」
「あっ・・、あの順也、でもね・・・・」
きっと史矢は『母親の自殺の事を思い出して傷ついている可愛そうな子供』の西原の事を心配してくれているのだろう。
仲良しの順也を傍に置いてくれようと、大切な順也の教育方針まで曲げていてくれるのだ。
史也の気遣が申し訳無さ過ぎて、でも順也は思い切り喜んでいるので、何と言っていいか西原は途方に暮れてしまう。
「んんっ!毎日来れる事になったぞっ!嬉しいか?西原ぁ」
「あっ、うん、勿論だよ・・でも、順也、あのね、それじゃあやっぱり瀬川さんにご迷惑じゃ」
「んんんんっ!皆いいって言ってるし、大丈夫だぞっ!」
「うううううう・・・・」
このままじゃ順也の情操教育にも悪そうだしどうしよう?とオロオロしていると、
『ほら御覧なさいっ!ちゃんと相談しないからよっ、猛烈に反省したかしら?』
『うううう・・・猛烈に反省しました』
順也と史也の後ろに立ってる桜子から、あからさまに呆れた視線を投げられてしまい、それに視線で返事をしながら、西原は自分の不甲斐無さにがっくりと肩を落としてしまうのだった。
―――PM7:00
「はぁ・・・、これでしばらく完璧に子供扱いだなぁ、もっとしっかりしなくちゃなぁ」
例によって豪華な病院食を順也に『あーーん』で食べさせて貰うという贅沢尽くしの夕食の後に、にわかに一人きりになった病室で西原はため息をついた。
順也と桜子と史也、それに大学が終わって来てくれた今晩付き添いをしてくれる智也の4人は、目の前のホテルに夕飯を食べに行ってしまった。
西原が困らない用に何時も誰かが傍にいてくれるので、久々に一人きりになった気のする静かな病室で、西原は不甲斐無い自分を一通り猛反省し、そして、もう一つ気になっていたある事を考える。
ずっと頭の隅で気になっていたのは、総一郎の事だった。
皆は総一郎の事を、同じ時期の同じ病院に家族が入院していた程度の知り合いだと思っているらしいけれど、事実はそうではない。
あの山奥の病院で、小さな子供だった自分と総一郎は良く一緒に遊んだ仲だった。
とは言っても、西原の方が随分年下だったので、総一郎に遊んで貰っていたと正しいのかもしれない。
病院の雰囲気に馴染めなくて、母親に度々暴力を振るわれて、あの頃の西原はあまり喋らない暗い子供だった。
でも、そんな西原に声を掛けてくれて、相手をしてくれたのが総一郎だった。
総一郎は高校に上がると学校の寮に入ってしまったので、実際に一緒に遊んで過ごした時間はほんの数年だ。
でも、その後も、病院に帰って来る度に西原に声を掛けてくれる、本当に優しい兄の様な存在だった。
面倒見が良くて、よく笑って、あんな寂しい場所で心を病んだ母親と暮らしていても、快活さを失わない少年。
その総一郎が、自分を車で撥ねた相手らしくて、しかも西原が信号無視をして飛び出して来たと嘘の証言をしている。
総一郎は事故の相手が自分だという事を知っているのだろうか?
いや、知っていても知らなくても、あの優しかった総一郎がどうしてそんな事を言うのは変じゃないだろうか?
何だか信じられない事が多くて、西原はずっと混乱していた。
でも、調べようにも、自分はベッドから動けないし、相手とは弁護士を挟んで揉めている様で、ここで、総一郎とは仲良しでしたと言い出していいものかどうか、西原にはまったく判断がつかない。
さっきは桜子から聞かれて、このまま弁護士さんに全部任せると答えたけれど、黙っていてまたややこしい話になったら今度こそ本気で呆れられてしまうだろう。
やっぱりここは総てを正直に相談した方がいいのかなぁと悩んでいると、
―――ガチャッ!
「西原ぁっ、ただいまっ」
いきなりドアが開いて、食事に行っている筈の順也が部屋に飛び込んできた。
学校帰りの順也は、まだワイシャツと学生ズボンの制服のままだ。
着崩す事無くピッチリと制服を着た順也の姿は、ストイックで清楚でもの凄く可愛い。
順也はタカタカッと西原に近づいて来て、そのままテンッと西原の寝ているベッドに腰掛けた。
「えっ?順也、晩御飯は?レストランでハンバーグを食べるんじゃなかったの?」
「んんっ、やっぱり西原の傍がいいから、ここで食べるぞっ!」
そしてそう言い、手にしている紙袋の中身をガサガサと取り出した。
袋の中からは紙に包まれた、バケットのフランスパンに卵やハムや野菜がたっぷり挟まったサンドイッチが出てきて、
「いただきますっ!」
「えっ、順也、何か飲み物は無いの?喉に詰まらない?」
「んんっ、大丈夫だぞっ」
結構な量のあったそれを、順也はお茶も飲まないであっという間にパクパクと食べてしまう。
順也が大好きなハンバーグも食べないで、自分の傍に戻って来てくれた。
恋人の優しい心に感動しながら、その可愛くも旺盛な食べっぷりに西原がシミジミと見惚れていると、
「ふぅ、美味しかったぞ、ご馳走さまっ!じゃあ、皆が帰ってくるまでに終わらせないといけないから始めるぞっ」
食べ終わったサンドウィッチの袋をクシャクシャと丸めた順也は、ゴミ箱にそれを投げ入れてから、妙に張り切った声でそう言ったのだった。
「えっ?始めるって何を?」
いきなり『始める』と言われても、何のことだが分からない。
なので、ゴソゴソとベッドに登ってきた順也にそう尋ねると、
「んんっ!男の子は骨を折って入院したら大変なんだぞっっ!」
「えっ?順也っっ、何するのっ??えっ、それはちょっとっ、ええええっっ?!」
順也は何だか意味の分からない事を言いながら、いきなり西原の下着に手を掛けてきたのだった。
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順也はそう決めて意気揚々だったけれど、本来ならそんな我侭は許される訳がなかった。
今日だけでも桜子の家に迷惑を掛けてしまっているのに、これから毎日だなんて、そこまで甘えてしまっていい筈がない。
絶対に他人に迷惑を掛けない。
順也の家族は皆順也に甘いけれど、それだけはいつも厳しく言われていた。
「お父さんっ!桜子姉さんがいいって言ってるからいいだろうっ?俺、毎日西原のお見舞いがしたいぞっ」
「でもですね、今日のお見舞いは特別で、次は土曜日だって、順也は昨日、お父さんとお母さんに約束しましたよね?夜に家から出た罰だから、順也もそれでいいと言っていましたよ?」
「んんっ!でも、やっぱり毎日がいいぞっ、駄目なら、もうお父さんと朝稽古しないぞっ!」
「はぁ・・まったく順也は反省していないですねぇ、申し訳ありません、桜子さん、一人ではタクシーを使っても心配ですし、私達が迎えに行ける時だけ瀬川さんにお迎えをお願いしてもいいですか?」
「まあ、お父様、瀬川は私がここに居る間は外で待っているだけですし、何でも無い事ですわ、お気になさらないでください」
しかし、仕事帰りにお見舞いに来てくれていた史也は、その我侭を意外な位にあっさりと許していた。
それは、駄目な事は駄目ときちんと叱る、必要な時には一番厳しい筈の、史也らしくない行動だった。
「順也、その代わりきちんと優希君の面倒を見てあげるんですよ」
「んっ!わかってるぞっ、ちゃんと面倒見るぞっっ」
「あっ・・、あの順也、でもね・・・・」
きっと史矢は『母親の自殺の事を思い出して傷ついている可愛そうな子供』の西原の事を心配してくれているのだろう。
仲良しの順也を傍に置いてくれようと、大切な順也の教育方針まで曲げていてくれるのだ。
史也の気遣が申し訳無さ過ぎて、でも順也は思い切り喜んでいるので、何と言っていいか西原は途方に暮れてしまう。
「んんっ!毎日来れる事になったぞっ!嬉しいか?西原ぁ」
「あっ、うん、勿論だよ・・でも、順也、あのね、それじゃあやっぱり瀬川さんにご迷惑じゃ」
「んんんんっ!皆いいって言ってるし、大丈夫だぞっ!」
「うううううう・・・・」
このままじゃ順也の情操教育にも悪そうだしどうしよう?とオロオロしていると、
『ほら御覧なさいっ!ちゃんと相談しないからよっ、猛烈に反省したかしら?』
『うううう・・・猛烈に反省しました』
順也と史也の後ろに立ってる桜子から、あからさまに呆れた視線を投げられてしまい、それに視線で返事をしながら、西原は自分の不甲斐無さにがっくりと肩を落としてしまうのだった。
―――PM7:00
「はぁ・・・、これでしばらく完璧に子供扱いだなぁ、もっとしっかりしなくちゃなぁ」
例によって豪華な病院食を順也に『あーーん』で食べさせて貰うという贅沢尽くしの夕食の後に、にわかに一人きりになった病室で西原はため息をついた。
順也と桜子と史也、それに大学が終わって来てくれた今晩付き添いをしてくれる智也の4人は、目の前のホテルに夕飯を食べに行ってしまった。
西原が困らない用に何時も誰かが傍にいてくれるので、久々に一人きりになった気のする静かな病室で、西原は不甲斐無い自分を一通り猛反省し、そして、もう一つ気になっていたある事を考える。
ずっと頭の隅で気になっていたのは、総一郎の事だった。
皆は総一郎の事を、同じ時期の同じ病院に家族が入院していた程度の知り合いだと思っているらしいけれど、事実はそうではない。
あの山奥の病院で、小さな子供だった自分と総一郎は良く一緒に遊んだ仲だった。
とは言っても、西原の方が随分年下だったので、総一郎に遊んで貰っていたと正しいのかもしれない。
病院の雰囲気に馴染めなくて、母親に度々暴力を振るわれて、あの頃の西原はあまり喋らない暗い子供だった。
でも、そんな西原に声を掛けてくれて、相手をしてくれたのが総一郎だった。
総一郎は高校に上がると学校の寮に入ってしまったので、実際に一緒に遊んで過ごした時間はほんの数年だ。
でも、その後も、病院に帰って来る度に西原に声を掛けてくれる、本当に優しい兄の様な存在だった。
面倒見が良くて、よく笑って、あんな寂しい場所で心を病んだ母親と暮らしていても、快活さを失わない少年。
その総一郎が、自分を車で撥ねた相手らしくて、しかも西原が信号無視をして飛び出して来たと嘘の証言をしている。
総一郎は事故の相手が自分だという事を知っているのだろうか?
いや、知っていても知らなくても、あの優しかった総一郎がどうしてそんな事を言うのは変じゃないだろうか?
何だか信じられない事が多くて、西原はずっと混乱していた。
でも、調べようにも、自分はベッドから動けないし、相手とは弁護士を挟んで揉めている様で、ここで、総一郎とは仲良しでしたと言い出していいものかどうか、西原にはまったく判断がつかない。
さっきは桜子から聞かれて、このまま弁護士さんに全部任せると答えたけれど、黙っていてまたややこしい話になったら今度こそ本気で呆れられてしまうだろう。
やっぱりここは総てを正直に相談した方がいいのかなぁと悩んでいると、
―――ガチャッ!
「西原ぁっ、ただいまっ」
いきなりドアが開いて、食事に行っている筈の順也が部屋に飛び込んできた。
学校帰りの順也は、まだワイシャツと学生ズボンの制服のままだ。
着崩す事無くピッチリと制服を着た順也の姿は、ストイックで清楚でもの凄く可愛い。
順也はタカタカッと西原に近づいて来て、そのままテンッと西原の寝ているベッドに腰掛けた。
「えっ?順也、晩御飯は?レストランでハンバーグを食べるんじゃなかったの?」
「んんっ、やっぱり西原の傍がいいから、ここで食べるぞっ!」
そしてそう言い、手にしている紙袋の中身をガサガサと取り出した。
袋の中からは紙に包まれた、バケットのフランスパンに卵やハムや野菜がたっぷり挟まったサンドイッチが出てきて、
「いただきますっ!」
「えっ、順也、何か飲み物は無いの?喉に詰まらない?」
「んんっ、大丈夫だぞっ」
結構な量のあったそれを、順也はお茶も飲まないであっという間にパクパクと食べてしまう。
順也が大好きなハンバーグも食べないで、自分の傍に戻って来てくれた。
恋人の優しい心に感動しながら、その可愛くも旺盛な食べっぷりに西原がシミジミと見惚れていると、
「ふぅ、美味しかったぞ、ご馳走さまっ!じゃあ、皆が帰ってくるまでに終わらせないといけないから始めるぞっ」
食べ終わったサンドウィッチの袋をクシャクシャと丸めた順也は、ゴミ箱にそれを投げ入れてから、妙に張り切った声でそう言ったのだった。
「えっ?始めるって何を?」
いきなり『始める』と言われても、何のことだが分からない。
なので、ゴソゴソとベッドに登ってきた順也にそう尋ねると、
「んんっ!男の子は骨を折って入院したら大変なんだぞっっ!」
「えっ?順也っっ、何するのっ??えっ、それはちょっとっ、ええええっっ?!」
順也は何だか意味の分からない事を言いながら、いきなり西原の下着に手を掛けてきたのだった。
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