「おまたせしました」
上半身裸の西原が道場に入って行くと、こちらを注目したそこにいる人間全員がどよめく。
理由はどうも、史也達同様に、露出している半身に感心したせいらしい。
「きゃーーーー!ミロのヴィーナスみたいだわっ」
「阿呆ぉ〜、あれはお姉ちゃんの彫刻だっぺぇ」
「兄貴ぃ、シャッターチャンスっす、写メ撮ってもいいっすかっ!」
相変わらずアホみたいに騒ぐ外国人達はともかく、
「困ったなぁ、おじさん自信なくすんぁ、見事に鍛えてるね、西原君は本当に順也君の同級生?」
「本当に綺麗ですねぇ、一流のモデルさんみたいです」
秘書の田淵や家元までが、訳の分らない事を言ってくる。
何やら袴だけのこの格好は大人気だけれど、西原としては史也達の方が余程羨ましかった。
憧れて止まない順也と同じ、無駄の無く引き締まったしなやかな身体。
それに比べたら、腕にも、胸にも、腹にも、しっかりと筋肉が盛り上がっている自分の身体は装飾過剰でむしろ滑稽に思える。
鍛えたら鍛えただけ重く筋肉のつく様な気がするこの体質は、どうにも好きになれなかった。
まあ、所詮は男の裸の事なんだから、見た目なんかどうかなんてどうでもいい事だろう。
西原はそう思い、集まる視線を会釈で受け流しながら、再び刀を手にして道場の中心に立った。
「始めます、よろしくお願いします」
そして、もう挨拶は適当でいいと智也に言われていたので、立ったまま一礼して刀を鞘から抜き去ったのだった。
「ひゃはは・・・いい格好だな、お人形さん・・」
演舞を始めると、何が嬉しいのか待っていた様に鷹也が冷やかす言葉を投げて来て、
「写メ撮りましたぜっ!兄貴ぃっ」
「待ち受けよっ!私の待ち受けにするわっ!」
これで本気で自分を攫って売るつもりがあるのだろうか?と疑いたくなる位にアホ丸出しのフランス人が、不躾に携帯で写真を撮る。
命令されて裸になり、好奇の目を向けられて演舞を舞うなんて、かなり屈辱的な事なのだろう。
だがしかし、覚えている順序通りに黙々と刀を振りながら、西原は自分が酷い目に合っているとは特に感じていなかった。
むしろこれが少しでも順也を守る事に繋がるのなら、自分の裸くらい幾らでも見てくださいという、悟った気分にすらなってしまう。
鷹也達の座る後ろで立っている史也や家元達は気掛かりそうにこちらを見ているけれど、西原の心が凹む理由なんて何処にも無かった。
なので、例え半分裸でも何の迷いも無く演舞を続ける。
それにもう一つ、この普通で無い状況で西原を躊躇させない大きな理由が存在した。
それは、この道場に入る前の控え室で史也から教えて貰った、自分や順也が生まれる前に起きた出来事の事だった。
その話を思い出し、それが現在にどんな繋がりを持っているかを考えれば、西原は自分の身に起きるこの家での大概の出来事は、平気で我慢出来る気がしていた。
「私がさっき会った先代のお嬢さんの万理絵さんと婚約していた話は、優希君はもうご噂知なんですよね」
演舞の始まる前の控え室。
正面に正座した史也にそう言われて、西原は答えに困ってしまった。
理由は寄りにも寄って史也の過去に、どこまで踏み込んで良いのか迷ったからだ。
順也の父親の史也には、まかり間違っても図々しい奴だとか思われたくない。
「あ・・はい昨日、翔也さんから・・・あの・・大雑把に聞きました」
なので、自分でも変だなと思うような半端な答えになってしまう。
「結局はお母さん・・小枝子と結婚する為に婚約は破棄してしまったのですけれど・・その婚約を破棄した理由が、だらしない話で恥ずかしいのですが、もうその時には小枝子のお腹に智也がいたからなんです」
しかし、史也はその事はちゃんと知っている様で、特に驚く様子も無く西原の返事を受け止めて、小さく笑ってから話の続きを語り始めた。
史也が早くに両親を無くし、遠縁であるこの家に引き取られて育って、この家には大きな恩が在る事。
万理絵との結婚式が数週間後にまで迫っていた上に、行く行くは家元を継ぐ事も決まっていて、とても総てを投げ出して小枝子と結婚出来る状況では無かった事。
小枝子の妊娠を知って、万理絵は気が違った様に怒り狂い、父親の当時の家元にも激しく叱責された事。
その二人に逆らい切れずに、小枝子にお腹の智也を諦める様に頼んだ事。
そして、血筋だけは後継者として正統だった今の家元が、史也の代わりを買って出てくれた事。
「今の私と私の家族の幸せがあるのは総て今の御家元のお陰です、御家元にもやりたい事があって、それを叶える才能もお持ちでしたのに、それを全部捨てて私と小枝子と智也を救ってくれたんです・・・ですから、今は何があろうと御家元を見限る事は出来ません」
何時道場に呼ばれるか分らないので、何時ものんびり話す史也にしては珍しいてきぱきとした口調で史也が話すのを、西原は相槌を打つのも遠慮しながら黙って聞いていた。
「理由はどうあれ、我が家の・・・いえ、私の事情に優希君を巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした、もう二度と今日みたいな事が無いように気を付けますから、懲りないで順也と仲良くしてやってください」
そして、史也は最後にそう言って、西原に向けて深々と頭を下げたので、
「いえっ、俺のほうこそ、話して頂いて有難うございましたっ」
西原も慌てて、頭を下げ返したのだった。
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理由はどうも、史也達同様に、露出している半身に感心したせいらしい。
「きゃーーーー!ミロのヴィーナスみたいだわっ」
「阿呆ぉ〜、あれはお姉ちゃんの彫刻だっぺぇ」
「兄貴ぃ、シャッターチャンスっす、写メ撮ってもいいっすかっ!」
相変わらずアホみたいに騒ぐ外国人達はともかく、
「困ったなぁ、おじさん自信なくすんぁ、見事に鍛えてるね、西原君は本当に順也君の同級生?」
「本当に綺麗ですねぇ、一流のモデルさんみたいです」
秘書の田淵や家元までが、訳の分らない事を言ってくる。
何やら袴だけのこの格好は大人気だけれど、西原としては史也達の方が余程羨ましかった。
憧れて止まない順也と同じ、無駄の無く引き締まったしなやかな身体。
それに比べたら、腕にも、胸にも、腹にも、しっかりと筋肉が盛り上がっている自分の身体は装飾過剰でむしろ滑稽に思える。
鍛えたら鍛えただけ重く筋肉のつく様な気がするこの体質は、どうにも好きになれなかった。
まあ、所詮は男の裸の事なんだから、見た目なんかどうかなんてどうでもいい事だろう。
西原はそう思い、集まる視線を会釈で受け流しながら、再び刀を手にして道場の中心に立った。
「始めます、よろしくお願いします」
そして、もう挨拶は適当でいいと智也に言われていたので、立ったまま一礼して刀を鞘から抜き去ったのだった。
「ひゃはは・・・いい格好だな、お人形さん・・」
演舞を始めると、何が嬉しいのか待っていた様に鷹也が冷やかす言葉を投げて来て、
「写メ撮りましたぜっ!兄貴ぃっ」
「待ち受けよっ!私の待ち受けにするわっ!」
これで本気で自分を攫って売るつもりがあるのだろうか?と疑いたくなる位にアホ丸出しのフランス人が、不躾に携帯で写真を撮る。
命令されて裸になり、好奇の目を向けられて演舞を舞うなんて、かなり屈辱的な事なのだろう。
だがしかし、覚えている順序通りに黙々と刀を振りながら、西原は自分が酷い目に合っているとは特に感じていなかった。
むしろこれが少しでも順也を守る事に繋がるのなら、自分の裸くらい幾らでも見てくださいという、悟った気分にすらなってしまう。
鷹也達の座る後ろで立っている史也や家元達は気掛かりそうにこちらを見ているけれど、西原の心が凹む理由なんて何処にも無かった。
なので、例え半分裸でも何の迷いも無く演舞を続ける。
それにもう一つ、この普通で無い状況で西原を躊躇させない大きな理由が存在した。
それは、この道場に入る前の控え室で史也から教えて貰った、自分や順也が生まれる前に起きた出来事の事だった。
その話を思い出し、それが現在にどんな繋がりを持っているかを考えれば、西原は自分の身に起きるこの家での大概の出来事は、平気で我慢出来る気がしていた。
「私がさっき会った先代のお嬢さんの万理絵さんと婚約していた話は、優希君はもうご噂知なんですよね」
演舞の始まる前の控え室。
正面に正座した史也にそう言われて、西原は答えに困ってしまった。
理由は寄りにも寄って史也の過去に、どこまで踏み込んで良いのか迷ったからだ。
順也の父親の史也には、まかり間違っても図々しい奴だとか思われたくない。
「あ・・はい昨日、翔也さんから・・・あの・・大雑把に聞きました」
なので、自分でも変だなと思うような半端な答えになってしまう。
「結局はお母さん・・小枝子と結婚する為に婚約は破棄してしまったのですけれど・・その婚約を破棄した理由が、だらしない話で恥ずかしいのですが、もうその時には小枝子のお腹に智也がいたからなんです」
しかし、史也はその事はちゃんと知っている様で、特に驚く様子も無く西原の返事を受け止めて、小さく笑ってから話の続きを語り始めた。
史也が早くに両親を無くし、遠縁であるこの家に引き取られて育って、この家には大きな恩が在る事。
万理絵との結婚式が数週間後にまで迫っていた上に、行く行くは家元を継ぐ事も決まっていて、とても総てを投げ出して小枝子と結婚出来る状況では無かった事。
小枝子の妊娠を知って、万理絵は気が違った様に怒り狂い、父親の当時の家元にも激しく叱責された事。
その二人に逆らい切れずに、小枝子にお腹の智也を諦める様に頼んだ事。
そして、血筋だけは後継者として正統だった今の家元が、史也の代わりを買って出てくれた事。
「今の私と私の家族の幸せがあるのは総て今の御家元のお陰です、御家元にもやりたい事があって、それを叶える才能もお持ちでしたのに、それを全部捨てて私と小枝子と智也を救ってくれたんです・・・ですから、今は何があろうと御家元を見限る事は出来ません」
何時道場に呼ばれるか分らないので、何時ものんびり話す史也にしては珍しいてきぱきとした口調で史也が話すのを、西原は相槌を打つのも遠慮しながら黙って聞いていた。
「理由はどうあれ、我が家の・・・いえ、私の事情に優希君を巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした、もう二度と今日みたいな事が無いように気を付けますから、懲りないで順也と仲良くしてやってください」
そして、史也は最後にそう言って、西原に向けて深々と頭を下げたので、
「いえっ、俺のほうこそ、話して頂いて有難うございましたっ」
西原も慌てて、頭を下げ返したのだった。
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