「はぁぁうぅぅぅぅ・・・」
PM7時15分。
すっかり日も暮れ、足下からの控えめなライトに照らされて、プールの水が光沢のある漆黒の布の様にユラユラと揺れる。
高層ビルの夜景が眩いプールサイドで、秋の気配を感じる心地良い夜風を肌に感じながら、西原は大きく溜息をついた。
すわり心地の良い籐製のデッキチェアに座り、肩にはパーカーを羽織っているので寒くも無く、目の前のテーブルにはホテルの豪華な料理が並べられている。
状況は申し分ないのだけれどガックリと項垂れてしまうのは、さっきから繰り返される順也のヤキモチ攻撃のせいだった。
桜子の友人の美人ホテルウーマン瑠璃子には何の反応も示さなかった順也だったけれど、その後、二人でビーチボールで遊んでいた時に、暴投してしまったそれを拾って渡してくれた、ちょっと小太りの女性に向い西原が笑ってお礼を言ったら、もの凄く怒った。
フランス人で金髪碧眼の同じ歳の美少女が言葉が通じなくて苦しているので通訳したら、『西原は凄いなぁ』と感心してくれたのに、その母親が『娘に親切にしてくれてありがとう』とお礼を言いに来て、それに西原が『どういたしまして』と答えたら、あっと言う間にホッペタを膨らませた。
ジュースが飲みたいと言うから、そこにいたボーイさんに声を掛けたら睨まれた。
ジュースをお代わりと言うから、別の今度はメイドさんに声を掛けたら、今度は何も起こらなかった。
半ば貸しきり状態のプールが楽しくて、プールサイドには食べても尽きないご馳走が山盛りで、順也の機嫌は基本的には悪くない。
なので、一回一回の剣幕は長続きしないのだけれど、こう頻繁に繰り返されると、流石に精神的にグッタリしてしまう。
力なく椅子に凭れる西原の前には、美味しそうな料理が並ぶテーブルを挟んで、桜子と三都葉が座っていた。
順也を連れてプールに来ている事を桜子がメールで知らせたら、あっという間にプールで順也と遊びたい智也と翔也が寄って来て、その翔也に釣られて三都葉も現われたのだ。
3人共、今日は一日忙しいと言っていた筈なのに、こんな場所で遊んでいていいのかと少々心配になるが、西原だって同じ立場なら迷わず順也とプールを取っただろうから、敢えて何も言わない。
ちなみに、智也と翔也と順也は皆で一緒に、一番人気の鉄板焼きの列に並びに行ってしまっているので、今はこの場に居なかった。
「もう訳がわかりません、順也は何を基準に怒っているんでしょうか?」
良い機会なので、西原がこれまでの経緯を話して疑問の答えを駄目もとで聞いてみると、
「そりゃ、その相手が優希君に、恋愛対象としての興味を持っているか否かでしょう」
「そうねぇ、瑠璃子は優希君が面白いって分かっているから、いくら見た目がこんなんでも、まず優希君にそう言う興味は持たないわねぇ」
「あの、俺が面白いって何ですか?」
「マゾ」
「ナル」
「うううっ・・もうその話題は飽きたからいいです、じゃあ、順也はあの人達が俺にそういう興味を持っているって勘違いしてるんですか?」
「勘違いじゃなくて、本当にそうなんじゃないかしら?順也ちゃんは誰かさんと違って、意外と勘が良いのよ」
「ははは、流石全国チャンピオン、誰かさんと違って洞察力が一味違いますねぇ」
微妙に疑わしいけれど、何だか筋の通った答えを二人は出してくれる。
何だ、ちゃんと基準があったのか。
何となく納得した西原だけれど、しかし、自分の派手な見かけだけに惹かれて薄っぺらな行為を寄せる人間はそれこそ掃いて捨てるほどいるので、このままではきりがないと怯えて、
「じゃあ、どうすれば順也がそんないらないヤキモチを妬かなくなると思いますか?」
縋る思いで解決策を尋ねると、
「無理よ、ヤキモチを妬くのは順也ちゃんが優希君を独り占めしたい証拠ですもの」
「妬かれる心配より、妬かれなくなった時の心配の方が重要だと思いますよ」
またあっさりと、でも今度はこれまで西原が考えた事も無いような事を、ピシッと指摘されてしまうのだった。
「それにしても良い眺めですねぇ」
「本当ねぇ」
桜子と三都葉が、鮮やかな色のカクテルを片手に、ウットリとした声を出す。
セレブな雰囲気で椅子にもたれ脚を組み、芸術品でも眺める様な二人の視線の先には、宝石を散りばめた様な都心の夜景ではなく、頼んだ鉄板焼きが焼けるのを待っている、順也、翔也、智也の後姿があった。
3人共、桜子が用意した、色違いだけれどお揃いの、水着とパーカーを身に着けていた。
手足が長く、頭が小さく、無駄なく鍛えられたしなやかな体躯をした3人。
「本当ですねぇ」
背中を向けると、身長の差はあるけれど、そっくりな後姿に、西原も一緒になり見惚れてしまう。
きっと、西原達をプールに誘ってくれた桜子の本当の狙いは、この絶景を見る為だったのだろう。
本当に桜子は何時も何かを企んでるなぁと、西原はいらない感心してしまう。
ちなみに、やはり桜子が用意してくれた、西原と三都葉の水着は、妙に派手派手しくて、その割りに面積が微妙に小さく、見た人が一瞬ギョッとするので何だか着ているのが恥ずかしい。
「きっと何か気付かない内に、ご機嫌をそこねる事をしてしまったんでしょうねぇ」
順也のに比べて自分の水着は何か変だなと薄々思っていたら、同じ様な水着を着せられた三都葉が諦めたように説明してくれて、ああ、嫌がらせだったのかと西原も納得した。
順也がヤキモチを妬くのは西原を独占したいという気持ちの現われ。
そうは言われても、順也がこんなな情け無い自分をそこまで好きでいてくれるなんて、自分に自信の持てない西原にはにわかに信じられない。
だけれど本当にそれがヤキモチの理由ならば、それは本当に嬉しい事だった。
順也のヤキモチの原因が無節操な好意のせいならば、直ぐにむくれる困った癖は治りそうに無い。
順也に『ヤキモチを妬いてもいい』と許可した心の片隅で、治せるものならなら治したいとこっそり考えていた。
だけれど、もう今はそんな気持ちもすっかり失せた。
西原だって、順也を独占したい気持ちは人一倍強く持っている。
順也がちょっとした事で、敏感に反応するその気持ちは手に取るように分かる。
そしてその気持ちは、相手を好きでいるうちは、決して消せるものだはないだろう。
「西原ぁっ!」
一番にお肉を貰った順也が、嬉しそうに振り返り、お皿を見せながら西原の名前を呼ぶ。
きっとオマエもお肉を貰いに来いと誘ってくれているのだろう。
可愛らしい順也が楽しそうに笑うので、何時の間にか増えたプールサイドのお客の視線が集まり、その視線が微笑ましそうに細められる。
そんな誰もが惹きつけられる順也を自分ひとりで独占したくって、
「うんっ、今行くよっ、順也っ」
水着がちょっと恥ずかしいのを我慢して、西原は慌てて椅子から立ち上がったのだった。
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PM7時15分。
すっかり日も暮れ、足下からの控えめなライトに照らされて、プールの水が光沢のある漆黒の布の様にユラユラと揺れる。
高層ビルの夜景が眩いプールサイドで、秋の気配を感じる心地良い夜風を肌に感じながら、西原は大きく溜息をついた。
すわり心地の良い籐製のデッキチェアに座り、肩にはパーカーを羽織っているので寒くも無く、目の前のテーブルにはホテルの豪華な料理が並べられている。
状況は申し分ないのだけれどガックリと項垂れてしまうのは、さっきから繰り返される順也のヤキモチ攻撃のせいだった。
桜子の友人の美人ホテルウーマン瑠璃子には何の反応も示さなかった順也だったけれど、その後、二人でビーチボールで遊んでいた時に、暴投してしまったそれを拾って渡してくれた、ちょっと小太りの女性に向い西原が笑ってお礼を言ったら、もの凄く怒った。
フランス人で金髪碧眼の同じ歳の美少女が言葉が通じなくて苦しているので通訳したら、『西原は凄いなぁ』と感心してくれたのに、その母親が『娘に親切にしてくれてありがとう』とお礼を言いに来て、それに西原が『どういたしまして』と答えたら、あっと言う間にホッペタを膨らませた。
ジュースが飲みたいと言うから、そこにいたボーイさんに声を掛けたら睨まれた。
ジュースをお代わりと言うから、別の今度はメイドさんに声を掛けたら、今度は何も起こらなかった。
半ば貸しきり状態のプールが楽しくて、プールサイドには食べても尽きないご馳走が山盛りで、順也の機嫌は基本的には悪くない。
なので、一回一回の剣幕は長続きしないのだけれど、こう頻繁に繰り返されると、流石に精神的にグッタリしてしまう。
力なく椅子に凭れる西原の前には、美味しそうな料理が並ぶテーブルを挟んで、桜子と三都葉が座っていた。
順也を連れてプールに来ている事を桜子がメールで知らせたら、あっという間にプールで順也と遊びたい智也と翔也が寄って来て、その翔也に釣られて三都葉も現われたのだ。
3人共、今日は一日忙しいと言っていた筈なのに、こんな場所で遊んでいていいのかと少々心配になるが、西原だって同じ立場なら迷わず順也とプールを取っただろうから、敢えて何も言わない。
ちなみに、智也と翔也と順也は皆で一緒に、一番人気の鉄板焼きの列に並びに行ってしまっているので、今はこの場に居なかった。
「もう訳がわかりません、順也は何を基準に怒っているんでしょうか?」
良い機会なので、西原がこれまでの経緯を話して疑問の答えを駄目もとで聞いてみると、
「そりゃ、その相手が優希君に、恋愛対象としての興味を持っているか否かでしょう」
「そうねぇ、瑠璃子は優希君が面白いって分かっているから、いくら見た目がこんなんでも、まず優希君にそう言う興味は持たないわねぇ」
「あの、俺が面白いって何ですか?」
「マゾ」
「ナル」
「うううっ・・もうその話題は飽きたからいいです、じゃあ、順也はあの人達が俺にそういう興味を持っているって勘違いしてるんですか?」
「勘違いじゃなくて、本当にそうなんじゃないかしら?順也ちゃんは誰かさんと違って、意外と勘が良いのよ」
「ははは、流石全国チャンピオン、誰かさんと違って洞察力が一味違いますねぇ」
微妙に疑わしいけれど、何だか筋の通った答えを二人は出してくれる。
何だ、ちゃんと基準があったのか。
何となく納得した西原だけれど、しかし、自分の派手な見かけだけに惹かれて薄っぺらな行為を寄せる人間はそれこそ掃いて捨てるほどいるので、このままではきりがないと怯えて、
「じゃあ、どうすれば順也がそんないらないヤキモチを妬かなくなると思いますか?」
縋る思いで解決策を尋ねると、
「無理よ、ヤキモチを妬くのは順也ちゃんが優希君を独り占めしたい証拠ですもの」
「妬かれる心配より、妬かれなくなった時の心配の方が重要だと思いますよ」
またあっさりと、でも今度はこれまで西原が考えた事も無いような事を、ピシッと指摘されてしまうのだった。
「それにしても良い眺めですねぇ」
「本当ねぇ」
桜子と三都葉が、鮮やかな色のカクテルを片手に、ウットリとした声を出す。
セレブな雰囲気で椅子にもたれ脚を組み、芸術品でも眺める様な二人の視線の先には、宝石を散りばめた様な都心の夜景ではなく、頼んだ鉄板焼きが焼けるのを待っている、順也、翔也、智也の後姿があった。
3人共、桜子が用意した、色違いだけれどお揃いの、水着とパーカーを身に着けていた。
手足が長く、頭が小さく、無駄なく鍛えられたしなやかな体躯をした3人。
「本当ですねぇ」
背中を向けると、身長の差はあるけれど、そっくりな後姿に、西原も一緒になり見惚れてしまう。
きっと、西原達をプールに誘ってくれた桜子の本当の狙いは、この絶景を見る為だったのだろう。
本当に桜子は何時も何かを企んでるなぁと、西原はいらない感心してしまう。
ちなみに、やはり桜子が用意してくれた、西原と三都葉の水着は、妙に派手派手しくて、その割りに面積が微妙に小さく、見た人が一瞬ギョッとするので何だか着ているのが恥ずかしい。
「きっと何か気付かない内に、ご機嫌をそこねる事をしてしまったんでしょうねぇ」
順也のに比べて自分の水着は何か変だなと薄々思っていたら、同じ様な水着を着せられた三都葉が諦めたように説明してくれて、ああ、嫌がらせだったのかと西原も納得した。
順也がヤキモチを妬くのは西原を独占したいという気持ちの現われ。
そうは言われても、順也がこんなな情け無い自分をそこまで好きでいてくれるなんて、自分に自信の持てない西原にはにわかに信じられない。
だけれど本当にそれがヤキモチの理由ならば、それは本当に嬉しい事だった。
順也のヤキモチの原因が無節操な好意のせいならば、直ぐにむくれる困った癖は治りそうに無い。
順也に『ヤキモチを妬いてもいい』と許可した心の片隅で、治せるものならなら治したいとこっそり考えていた。
だけれど、もう今はそんな気持ちもすっかり失せた。
西原だって、順也を独占したい気持ちは人一倍強く持っている。
順也がちょっとした事で、敏感に反応するその気持ちは手に取るように分かる。
そしてその気持ちは、相手を好きでいるうちは、決して消せるものだはないだろう。
「西原ぁっ!」
一番にお肉を貰った順也が、嬉しそうに振り返り、お皿を見せながら西原の名前を呼ぶ。
きっとオマエもお肉を貰いに来いと誘ってくれているのだろう。
可愛らしい順也が楽しそうに笑うので、何時の間にか増えたプールサイドのお客の視線が集まり、その視線が微笑ましそうに細められる。
そんな誰もが惹きつけられる順也を自分ひとりで独占したくって、
「うんっ、今行くよっ、順也っ」
水着がちょっと恥ずかしいのを我慢して、西原は慌てて椅子から立ち上がったのだった。
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