「うわぁぁ!凄く綺麗だなぁっ!西原ぁっ」
「うん、そうだね、順也」
分厚そうな曇り硝子に、金で複雑な模様が描かれた、見上げる程の巨大な扉。
自動ドアになっているそれが真ん中から音も無く左右に開き、その向うに広がった光景に、順也が大きな歓声を上げた。
西原達が居るのは新宿の高層ビル群が間近に見える老舗の高級ホテル。
その45階にある、ホテルの会員制フィットネスクラブに付属したプールだった。
外から見上げた時、ホテルの外観が途中から少し細くなっていているのが見えたけれど、ここは丁度その細くなっていた部分らしい。
意外と広くベランダの様に張り出したそこに作られている大きな楕円形のプールは、夕方の近い夏の空に下で湛えた透明な水をキラキラと輝かせていた。
そして、45階だけあって眺めも開放感も最高で、グルリと観葉植物の多く置かれた向うには透明な硝子の柵が目立たなくしてあって、まるで空中に浮かんでいる庭の佇んで居る様な気にさせる。
ここで今日は、このプールの改装が終わった事を記念したパーティーが開かれていて、プールサイドには瀟洒なテントが出されていて、その下には白いテーブルクロスの掛かったテーブルが置かれ、沢山の豪華な料理が準備されていた。
「西原ぁ!誰も泳いでないぞっ!早く泳ごうっっ」
「待って!順也っ、いきなり飛び込まないで、準備運動が先だよっ、あと遊園地のプールじゃないんだからそんなに騒いじゃ駄目だよっ!」
「ホホホ・・いいのよ、好きな様に楽しく泳いでくれて、でもこのパーカーは脱ぎましょうね、順也ちゃん」
余りプールらしくない、良い匂いが漂う贅沢な空間。
しかし、パーティーと言うにはお客が少なく、プールサイドにはホテル側の給仕の人の姿の方が目立っていた。
そして、せっかく改装したばかりの、豪華なタイル張りのプールの中には、順也の言う通りにまったく人影が無い。
貸切状態のプールに喜んで飛び込もうとする水着姿の順也を、西原が慌てて引き止めて、 連れて来てくれた桜子が楽しそうに笑いながら、順也のパーカーを脱がせてくれようとしていると、
「桜子、来てくれたのねっっ、ありがとうっ、助かるわっ!!!」
プールの向う側から、ホテルの従業員の格好をした女が駆け寄ってきて、ガバッとやはり水着姿の桜子に抱きついた。
桜子に抱きついたスーツ姿の美女は、皐月瑠璃子という女性で、桜子の小学校からの大親友だということだった。
桜子と並んでも引けを取らない、目鼻立ちのハッキリしたスラリと長身の美人で、父親が社長のこのホテルで、将来は跡を継ぐ為にホテルマンとして働いている。
今日、桜子を通じて、このプールに西原と順也を誘ってくれたのはこの女性だった。
誘ってくれた理由は、改修工事が遅れて9月と言う半端な時期になってしまい、お客が微妙に集まりそうに無いプール開きを賑やかにして欲しいという、つまりは景気付けと言う事らしい。
もう2年ほど前になるけれど、以前一度、智也の大学の学園祭で会ったことがあるので、実は西原も順也も初対面ではない。
「こんにちは、お久しぶりです、今日はこんな綺麗なプールに誘って頂いてありがとうございます」
なので、桜子との挨拶が一通り終わった頃を見計らって、いつも通り人見知りしている順也の代わりに西原が挨拶をすると、
「こちらこそ、無沙汰しています、まぁっ、あなたがあの時の男の子?桜子には聞いていたけれど、本当に素敵な男の人になったのねぇ・・」
瑠璃子はじっと西原を見て、頬に手を当て酷く感嘆した声を出した。
「いえっ、俺なんか、背が伸びたくらいで何も変わっていません・・」
「そんな事ないわ、本当に見違えちゃった」
「いえ、そんなっ・・」
「あら、優希君、珍しく照れてるの?瑠璃子は美人ですものえぇ」
「さ、桜子さんっ、そんな事ないですっ、からかわないでくださいっ!」
「あらっ?そんな事無いって、私が美人じゃ無いって事かしらっ?」
「あっ!いえっっ、全然そんな事はっっ!」
桜子とその親友、何だか雰囲気の似ている微妙に苦手な二人を前に、西原は心ならずも緊張して、受け答えがしどろもどろになってしまう。
桜子もハキハキしているけれど、瑠璃子もこんな立派なホテルの跡を継ごうとしているだけあって、仕草は桜子同様に上品だけれど口がまわる。
「それじゃあ皆さんはごゆっくり、順也ちゃん、沢山泳いで一杯食べていってね」
そして、しばらく桜子と一緒になって、オロオロする西原をからかった瑠璃子だったけれど、やがてポケットの中の携帯で呼ばれたらしく、そう言い残し急ぎ足でホテルの中に戻っていった。
やっと二人掛かりのイジメから開放されてホッとした西原は、背中に隠れて大人しい順也の方を振り返ろうとして、その瞬間に『はっ!!』とした。
―――あんな大人の美人と親しく話していたら、また順也のヤキモチスイッチが入るかもっっ!?
「順也っっ、今のは違うよっ、そういうんじゃ無いんだよっ!!」
どこの誰からとも知れない手紙にあれだけ怒っていたんだから、今ので怒らない訳が無い。
今日の学校での散々だった事を思い出し、早くも泣きたい気分で西原が振り返ると、
「ん?違うって何がだ?」
しかし、順也は何時の間に手にしたのか、カットされたオレンジの実がとハイビスカスが綺麗に飾ってある、ゴージャスなオレンジジュースをチューッとストローで吸いながら、不思議そうに顔を傾けてみせた。
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「うん、そうだね、順也」
分厚そうな曇り硝子に、金で複雑な模様が描かれた、見上げる程の巨大な扉。
自動ドアになっているそれが真ん中から音も無く左右に開き、その向うに広がった光景に、順也が大きな歓声を上げた。
西原達が居るのは新宿の高層ビル群が間近に見える老舗の高級ホテル。
その45階にある、ホテルの会員制フィットネスクラブに付属したプールだった。
外から見上げた時、ホテルの外観が途中から少し細くなっていているのが見えたけれど、ここは丁度その細くなっていた部分らしい。
意外と広くベランダの様に張り出したそこに作られている大きな楕円形のプールは、夕方の近い夏の空に下で湛えた透明な水をキラキラと輝かせていた。
そして、45階だけあって眺めも開放感も最高で、グルリと観葉植物の多く置かれた向うには透明な硝子の柵が目立たなくしてあって、まるで空中に浮かんでいる庭の佇んで居る様な気にさせる。
ここで今日は、このプールの改装が終わった事を記念したパーティーが開かれていて、プールサイドには瀟洒なテントが出されていて、その下には白いテーブルクロスの掛かったテーブルが置かれ、沢山の豪華な料理が準備されていた。
「西原ぁ!誰も泳いでないぞっ!早く泳ごうっっ」
「待って!順也っ、いきなり飛び込まないで、準備運動が先だよっ、あと遊園地のプールじゃないんだからそんなに騒いじゃ駄目だよっ!」
「ホホホ・・いいのよ、好きな様に楽しく泳いでくれて、でもこのパーカーは脱ぎましょうね、順也ちゃん」
余りプールらしくない、良い匂いが漂う贅沢な空間。
しかし、パーティーと言うにはお客が少なく、プールサイドにはホテル側の給仕の人の姿の方が目立っていた。
そして、せっかく改装したばかりの、豪華なタイル張りのプールの中には、順也の言う通りにまったく人影が無い。
貸切状態のプールに喜んで飛び込もうとする水着姿の順也を、西原が慌てて引き止めて、 連れて来てくれた桜子が楽しそうに笑いながら、順也のパーカーを脱がせてくれようとしていると、
「桜子、来てくれたのねっっ、ありがとうっ、助かるわっ!!!」
プールの向う側から、ホテルの従業員の格好をした女が駆け寄ってきて、ガバッとやはり水着姿の桜子に抱きついた。
桜子に抱きついたスーツ姿の美女は、皐月瑠璃子という女性で、桜子の小学校からの大親友だということだった。
桜子と並んでも引けを取らない、目鼻立ちのハッキリしたスラリと長身の美人で、父親が社長のこのホテルで、将来は跡を継ぐ為にホテルマンとして働いている。
今日、桜子を通じて、このプールに西原と順也を誘ってくれたのはこの女性だった。
誘ってくれた理由は、改修工事が遅れて9月と言う半端な時期になってしまい、お客が微妙に集まりそうに無いプール開きを賑やかにして欲しいという、つまりは景気付けと言う事らしい。
もう2年ほど前になるけれど、以前一度、智也の大学の学園祭で会ったことがあるので、実は西原も順也も初対面ではない。
「こんにちは、お久しぶりです、今日はこんな綺麗なプールに誘って頂いてありがとうございます」
なので、桜子との挨拶が一通り終わった頃を見計らって、いつも通り人見知りしている順也の代わりに西原が挨拶をすると、
「こちらこそ、無沙汰しています、まぁっ、あなたがあの時の男の子?桜子には聞いていたけれど、本当に素敵な男の人になったのねぇ・・」
瑠璃子はじっと西原を見て、頬に手を当て酷く感嘆した声を出した。
「いえっ、俺なんか、背が伸びたくらいで何も変わっていません・・」
「そんな事ないわ、本当に見違えちゃった」
「いえ、そんなっ・・」
「あら、優希君、珍しく照れてるの?瑠璃子は美人ですものえぇ」
「さ、桜子さんっ、そんな事ないですっ、からかわないでくださいっ!」
「あらっ?そんな事無いって、私が美人じゃ無いって事かしらっ?」
「あっ!いえっっ、全然そんな事はっっ!」
桜子とその親友、何だか雰囲気の似ている微妙に苦手な二人を前に、西原は心ならずも緊張して、受け答えがしどろもどろになってしまう。
桜子もハキハキしているけれど、瑠璃子もこんな立派なホテルの跡を継ごうとしているだけあって、仕草は桜子同様に上品だけれど口がまわる。
「それじゃあ皆さんはごゆっくり、順也ちゃん、沢山泳いで一杯食べていってね」
そして、しばらく桜子と一緒になって、オロオロする西原をからかった瑠璃子だったけれど、やがてポケットの中の携帯で呼ばれたらしく、そう言い残し急ぎ足でホテルの中に戻っていった。
やっと二人掛かりのイジメから開放されてホッとした西原は、背中に隠れて大人しい順也の方を振り返ろうとして、その瞬間に『はっ!!』とした。
―――あんな大人の美人と親しく話していたら、また順也のヤキモチスイッチが入るかもっっ!?
「順也っっ、今のは違うよっ、そういうんじゃ無いんだよっ!!」
どこの誰からとも知れない手紙にあれだけ怒っていたんだから、今ので怒らない訳が無い。
今日の学校での散々だった事を思い出し、早くも泣きたい気分で西原が振り返ると、
「ん?違うって何がだ?」
しかし、順也は何時の間に手にしたのか、カットされたオレンジの実がとハイビスカスが綺麗に飾ってある、ゴージャスなオレンジジュースをチューッとストローで吸いながら、不思議そうに顔を傾けてみせた。
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