「なぁ、西原」
「はい、何?順也」
「今日はこれから席替えがあるだろう?」
「うん、新学期だからきっとそうだね」
「今は西原と俺の席が遠いから次はもっと近いといいなっ、そうしたら授業中もきっと楽しいよなっ」
「あはは、うん、そうだね、授業中はお喋り出来ないけれど、近くに居れたらきっとそれだけで楽しいよね」
「んんんっ、絶対、西原の隣になりたいぞっ、なぁ、どうしたらなれると思う?」
「うーーーん、どうしたらって言ってもクジ引きだからね、引く時に手に気合を込めるとかしかないんじゃなかなぁ?」
「手に気合?どうやるんだ?」
「こう手に力を込めて、『良いクジが引けますようにっ』って強く念じるんだよ」
「んっ!分かったぞっ、んんんんんんんんんっ!西原の隣の席が引けますようにっ!」
「あはは、そうそう」
「んんんんんんんんんんんんんっ!」
「わぁっ!順也、まだ始めないでいいからっ、それから息はちゃんとしてねっ」
迷惑なバラの花束のせいで、またプゥッとホッペタを膨らませた順也だったけれど、体育館から帰った頃にはすっかり元に戻っていた。
始業式が終了した後、担任の羽田が来ない教室は、皆好き勝手に動き回っていて騒々しい。
順也もトテトテと西原の席までやってきて、楽しそうにこれからある筈の席替えの話なんかをしている。
「西原も気合を込めて引いてくれよなっ!」
「はいはい、勿論頑張るよ」
そう言いながら甘えて座っている西原の背中に抱きついてくる順也の暖かな体温を感じて、西原もまた幸せな気分になる。
ああ、神様・・・今度こそ、もう順也の機嫌が悪くなりませんように。
今度こそ迂闊な行動をしてしまって、順也を怒らせる事が無い様に気をつけようと気を引き締めた西原だった。
だけれど、そんな今日数度目の西原の切なる願いも、努力する間もなくあっと言う間に粉砕されてしまう事になる。
「そうだ順也の宿題の『横浜遠足のしおり』、桜子さんが作ってくれたのを今朝預かって、俺が持ったままになってるんだった、きっとこれから集めるよね、今渡すからちょっと待っててね」
「んっ!待ってるぞっ」
「えっとね、確かこのカバンの中にクリアファイルに入れて・・・あった、はいこれっ、パソコンで作ってくれて凄く綺麗に出来てるよ、ちょっと立派に出来すぎかなぁ」
「んっ、ありがとうな」
「分かってると思うけれど、作って貰ったのは内緒だよ、今回は本当に特別なんだからね」
「んっ、分かってるぞ・・・・んんっ?」
「えっ?どうしたの・・・・はああああああっ!」
順也が夏休みの最後に体調を崩してしまったせいで、間に合わなかった宿題の一つ。
手間の掛かりそうなそれを、桜こに外注に出して、完成したそれを西原は今朝受け取ったのだ。
そしてそのまま朝の慌しさに紛れて、自分の鞄に入れっぱなしのままにしていた。
ちゃんとクリアファイルに挟まっているそれを、西原は順也に手渡そうとしたのだが、しかし渡したファイルの一番上に、何時の間に紛れ込んだのか、ピンクの封筒が一緒に挟まっていた。
―――西原優希君へ、お返事待って待っています
封筒の上に書かれている丸文字を読んだ順也の顔がみるみる険しくなる。
「あはは・・こんなとこにまた落し物が・・・多いよね、落し物」
崖っぷちの状況を何とか笑顔で乗り切ろうとした西原だったけれど、
「んんんん!西原ぁっっ!」
「うわぁ!もう許してぇぇぇ」
努力も虚しく、またもや順也の不機嫌スイッチを入れてしまった。
どうして、順也はそんなに『ヤキモチ』を妬くのだろう?
ラブレター付き宿題を渡したところで担任の羽田が入ってきてしまったので、順也はホッペタを膨らませたまま自分の席に帰ってしまった。
午前10:30分。
学校に来てまだ2時間と経っていないのに、もう何度順也のムゥッと怒った顔を見た事だろう。
順也は怒った顔も可愛いくて、すぐに機嫌が直ると分かっているけれど、それでも円らな大きい目で睨まれる度に、心臓に悪い事には変わりない。
西原が教室の一番後ろの席で、順也は前から3番目。
何時もより遠くに感じる順也の背中を見ながら、西原はつくづく不思議に思ってしまう。
西原には順也しか大切なものはないし、順也以外の何もいらない。
西原の存在の総ては、順也だけの為にある存在だった。
今日だってそれを誓った印の指輪を順也は大切そうに胸に下げていているのに、どうして名前も知らない他の人間のことなんかを、そんなに気にするのだろうか。
鷹也の事で順也に嘘をついてしまった西原に信用が無いと言ってしまえばそれまでかもしれない。
―――もっと自信を持って、堂々としていてくれればいいのになぁ・・
順也を極度な『ヤキモチ』焼きにしてしまった原因は自分だと分かっていても、西原は何となく恨めしい気分になってしまう。
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「今日はこれから席替えがあるだろう?」
「うん、新学期だからきっとそうだね」
「今は西原と俺の席が遠いから次はもっと近いといいなっ、そうしたら授業中もきっと楽しいよなっ」
「あはは、うん、そうだね、授業中はお喋り出来ないけれど、近くに居れたらきっとそれだけで楽しいよね」
「んんんっ、絶対、西原の隣になりたいぞっ、なぁ、どうしたらなれると思う?」
「うーーーん、どうしたらって言ってもクジ引きだからね、引く時に手に気合を込めるとかしかないんじゃなかなぁ?」
「手に気合?どうやるんだ?」
「こう手に力を込めて、『良いクジが引けますようにっ』って強く念じるんだよ」
「んっ!分かったぞっ、んんんんんんんんんっ!西原の隣の席が引けますようにっ!」
「あはは、そうそう」
「んんんんんんんんんんんんんっ!」
「わぁっ!順也、まだ始めないでいいからっ、それから息はちゃんとしてねっ」
迷惑なバラの花束のせいで、またプゥッとホッペタを膨らませた順也だったけれど、体育館から帰った頃にはすっかり元に戻っていた。
始業式が終了した後、担任の羽田が来ない教室は、皆好き勝手に動き回っていて騒々しい。
順也もトテトテと西原の席までやってきて、楽しそうにこれからある筈の席替えの話なんかをしている。
「西原も気合を込めて引いてくれよなっ!」
「はいはい、勿論頑張るよ」
そう言いながら甘えて座っている西原の背中に抱きついてくる順也の暖かな体温を感じて、西原もまた幸せな気分になる。
ああ、神様・・・今度こそ、もう順也の機嫌が悪くなりませんように。
今度こそ迂闊な行動をしてしまって、順也を怒らせる事が無い様に気をつけようと気を引き締めた西原だった。
だけれど、そんな今日数度目の西原の切なる願いも、努力する間もなくあっと言う間に粉砕されてしまう事になる。
「そうだ順也の宿題の『横浜遠足のしおり』、桜子さんが作ってくれたのを今朝預かって、俺が持ったままになってるんだった、きっとこれから集めるよね、今渡すからちょっと待っててね」
「んっ!待ってるぞっ」
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「んっ、ありがとうな」
「分かってると思うけれど、作って貰ったのは内緒だよ、今回は本当に特別なんだからね」
「んっ、分かってるぞ・・・・んんっ?」
「えっ?どうしたの・・・・はああああああっ!」
順也が夏休みの最後に体調を崩してしまったせいで、間に合わなかった宿題の一つ。
手間の掛かりそうなそれを、桜こに外注に出して、完成したそれを西原は今朝受け取ったのだ。
そしてそのまま朝の慌しさに紛れて、自分の鞄に入れっぱなしのままにしていた。
ちゃんとクリアファイルに挟まっているそれを、西原は順也に手渡そうとしたのだが、しかし渡したファイルの一番上に、何時の間に紛れ込んだのか、ピンクの封筒が一緒に挟まっていた。
―――西原優希君へ、お返事待って待っています
封筒の上に書かれている丸文字を読んだ順也の顔がみるみる険しくなる。
「あはは・・こんなとこにまた落し物が・・・多いよね、落し物」
崖っぷちの状況を何とか笑顔で乗り切ろうとした西原だったけれど、
「んんんん!西原ぁっっ!」
「うわぁ!もう許してぇぇぇ」
努力も虚しく、またもや順也の不機嫌スイッチを入れてしまった。
どうして、順也はそんなに『ヤキモチ』を妬くのだろう?
ラブレター付き宿題を渡したところで担任の羽田が入ってきてしまったので、順也はホッペタを膨らませたまま自分の席に帰ってしまった。
午前10:30分。
学校に来てまだ2時間と経っていないのに、もう何度順也のムゥッと怒った顔を見た事だろう。
順也は怒った顔も可愛いくて、すぐに機嫌が直ると分かっているけれど、それでも円らな大きい目で睨まれる度に、心臓に悪い事には変わりない。
西原が教室の一番後ろの席で、順也は前から3番目。
何時もより遠くに感じる順也の背中を見ながら、西原はつくづく不思議に思ってしまう。
西原には順也しか大切なものはないし、順也以外の何もいらない。
西原の存在の総ては、順也だけの為にある存在だった。
今日だってそれを誓った印の指輪を順也は大切そうに胸に下げていているのに、どうして名前も知らない他の人間のことなんかを、そんなに気にするのだろうか。
鷹也の事で順也に嘘をついてしまった西原に信用が無いと言ってしまえばそれまでかもしれない。
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