剣道部の部室は、体育館の裏にある運動部の部室が集まる部室棟の2階にあった。
体育館の陰で日当たりの悪い建物は、古い上に部屋は陸上部と共有で、床は土足だしお世辞にも快適とは言えない。
でも、かさ張る剣道の道具を置いておく事が出来るので、あるだけで有難かった。
「順也っ!待って、何怒っているのっ?」
他に誰か居てもおかしくないのだが、始業式の前のせいなのか部室棟には人影がない。
無人の階段を上がり、ドンドンと大股で歩いていってしまう順也を追いかけて、西原は部室へ足を踏み入れた。
―――ドンッ
部屋に入ると順也は振り向きもしないで、部屋の真ん中にある大きなテーブルに乱暴に防具の袋を下ろした。
「あ・・・順也、あの、俺何か悪い事した?」
小さな背中を見ただけでその不機嫌さが伝わってくる。
西原は顔を見せてくれない順也の後ろに立ち、オロオロと話しかけた。
ついさっき、車を降りるまではあんなに上機嫌だったのに、どうしてこんな事になってしまったのか分からない。
また順也を怒らせてしまった。
どうしよう?どうしよう?どうしよう?
また口も利いてもらえなくし、部屋にも入れて貰えなくなる。
つい数日前までの悲しい記憶を思い出し、西原は朝から今にも泣きそうになってしまう。
「あ・・・っ、校門で騒いだのはゴメンネ、でもあれは翔也さんが・・その悪いと思うし・・」
さっきの事はどう考えても悪いのは翔也の方で、順也だってそれが分からない筈がない。
それが腹を立てている理由とは思わないけれど、他に順也の機嫌が悪くなる心当たりも無くて、翔也を悪者にして悪いと思いながらも、取りあえず謝ってみる。
きっと効果はないんだろなぁ、次はどうしよう?
言ってはみたけれど余り結果を期待していなくて、何時再び『あっちに行ってくれよなっ』と言われてしまうのかと戦々恐々していた西原だったけれど、
「んっ・・・知ってるぞ・・怒ってゴメンな西原ぁ・・」
予想に反して何故だか効果はバツグンで、クルリと振り向いた順也はそう言いながら、パフンと西原の胸に飛び込んで来た。
「え・・?あれ・・?えっ?」
今まで怒っていたと思っていたのにいきなり謝られてしまい、話の展開に西原はついていけない。
でも、取りあえず順也の機嫌が直ったのは確かな様で、
「西原ぁ、怒ってゴメンなのキスぅ」
「あっ・・はいはいっ」
安堵した西原は順也に言われるがままに、見上げて来る甘えた顔の頬を手で小さく撫でてから、その腰に手を回して引き寄せて、そっと唇を重ねたのだった。
「あのね、順也、どうしてさっきは怒ったの?」
部室から教室に移動する道すがら、西原はキスですっかり機嫌の直った順也に、どうして急に怒り出したのか、その理由を尋ねてみた。
話を蒸し返すのは何だか恐い気もするけれど、怒ったきっかけが分からないのはもっと恐い。
「ん?あのな、俺もどうしてか考えたんだけれど、さっき翔也兄さんが、西原の好きな女の子の事を聞いてただろう?」
「俺の好きな女の子じゃなくて、好きなタイプを聞いてたんだよっ、それに俺が好きなのは順也だけだから、答えられるものならちゃんとそう答えてたよっ」
「んっ、そうだけど、翔也兄さんがしつこく聞いてるから、いるとしたらどんな子かなぁってちょっと試しに想像したら、何かもの凄くイライラしてきたんだぞ」
「試しに想像・・・それで、怒ってたの?」
「そうだぞ、こういうの、『ヤモキチ』って言うんだよなっ」
「それを言うなら『ヤキモチ』だよ、順也」
「んっ、その『ヤキモチ』っ、あのな鷹也さんの時の事でも、俺、『ヤキモチ』妬いただろう?」
「あは・・・あはは・・・そうかな?そうだったね、なかなか激しかったかも・・で、でもそれと今日の事は余り関係ないんじゃない?」
「そうだけどな、でもな、その時の『ヤキモチ』が何だか癖になってるだけみたいなんだぞっ」
「くっ癖?」
「んっ、何かなオマエと他の誰かの事を一緒に考えると、どうでもいい事で怒りたくなって、ちょっとした事でイライラするぞっ」
「どうでもいいって分かってるのにイライラッ?!」
「そうだぞ、でもどうでもいいからそのうち治ると思うし、それまで俺が怒ってもあんまり気にしないでくれよなっ!」
「えええええええっ!!!!そんなの絶対に無理だよっっ!!!!」
久々の学校をキョロキョロと見回しながら話してくれた順也の答えは、思っていた以上に外なものだった。
それが本当なら、これからもまだまだ自分は、大した理由も無いのに順也に怒られ続けるという事だろうか?
言った本人はあっけらかんとしているけれど、余りに衝撃的で納得出来ないその内容に、西原は回りに人がいるのも忘れて、思わず学校中に響く様な大声を出してしまった。
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でも、かさ張る剣道の道具を置いておく事が出来るので、あるだけで有難かった。
「順也っ!待って、何怒っているのっ?」
他に誰か居てもおかしくないのだが、始業式の前のせいなのか部室棟には人影がない。
無人の階段を上がり、ドンドンと大股で歩いていってしまう順也を追いかけて、西原は部室へ足を踏み入れた。
―――ドンッ
部屋に入ると順也は振り向きもしないで、部屋の真ん中にある大きなテーブルに乱暴に防具の袋を下ろした。
「あ・・・順也、あの、俺何か悪い事した?」
小さな背中を見ただけでその不機嫌さが伝わってくる。
西原は顔を見せてくれない順也の後ろに立ち、オロオロと話しかけた。
ついさっき、車を降りるまではあんなに上機嫌だったのに、どうしてこんな事になってしまったのか分からない。
また順也を怒らせてしまった。
どうしよう?どうしよう?どうしよう?
また口も利いてもらえなくし、部屋にも入れて貰えなくなる。
つい数日前までの悲しい記憶を思い出し、西原は朝から今にも泣きそうになってしまう。
「あ・・・っ、校門で騒いだのはゴメンネ、でもあれは翔也さんが・・その悪いと思うし・・」
さっきの事はどう考えても悪いのは翔也の方で、順也だってそれが分からない筈がない。
それが腹を立てている理由とは思わないけれど、他に順也の機嫌が悪くなる心当たりも無くて、翔也を悪者にして悪いと思いながらも、取りあえず謝ってみる。
きっと効果はないんだろなぁ、次はどうしよう?
言ってはみたけれど余り結果を期待していなくて、何時再び『あっちに行ってくれよなっ』と言われてしまうのかと戦々恐々していた西原だったけれど、
「んっ・・・知ってるぞ・・怒ってゴメンな西原ぁ・・」
予想に反して何故だか効果はバツグンで、クルリと振り向いた順也はそう言いながら、パフンと西原の胸に飛び込んで来た。
「え・・?あれ・・?えっ?」
今まで怒っていたと思っていたのにいきなり謝られてしまい、話の展開に西原はついていけない。
でも、取りあえず順也の機嫌が直ったのは確かな様で、
「西原ぁ、怒ってゴメンなのキスぅ」
「あっ・・はいはいっ」
安堵した西原は順也に言われるがままに、見上げて来る甘えた顔の頬を手で小さく撫でてから、その腰に手を回して引き寄せて、そっと唇を重ねたのだった。
「あのね、順也、どうしてさっきは怒ったの?」
部室から教室に移動する道すがら、西原はキスですっかり機嫌の直った順也に、どうして急に怒り出したのか、その理由を尋ねてみた。
話を蒸し返すのは何だか恐い気もするけれど、怒ったきっかけが分からないのはもっと恐い。
「ん?あのな、俺もどうしてか考えたんだけれど、さっき翔也兄さんが、西原の好きな女の子の事を聞いてただろう?」
「俺の好きな女の子じゃなくて、好きなタイプを聞いてたんだよっ、それに俺が好きなのは順也だけだから、答えられるものならちゃんとそう答えてたよっ」
「んっ、そうだけど、翔也兄さんがしつこく聞いてるから、いるとしたらどんな子かなぁってちょっと試しに想像したら、何かもの凄くイライラしてきたんだぞ」
「試しに想像・・・それで、怒ってたの?」
「そうだぞ、こういうの、『ヤモキチ』って言うんだよなっ」
「それを言うなら『ヤキモチ』だよ、順也」
「んっ、その『ヤキモチ』っ、あのな鷹也さんの時の事でも、俺、『ヤキモチ』妬いただろう?」
「あは・・・あはは・・・そうかな?そうだったね、なかなか激しかったかも・・で、でもそれと今日の事は余り関係ないんじゃない?」
「そうだけどな、でもな、その時の『ヤキモチ』が何だか癖になってるだけみたいなんだぞっ」
「くっ癖?」
「んっ、何かなオマエと他の誰かの事を一緒に考えると、どうでもいい事で怒りたくなって、ちょっとした事でイライラするぞっ」
「どうでもいいって分かってるのにイライラッ?!」
「そうだぞ、でもどうでもいいからそのうち治ると思うし、それまで俺が怒ってもあんまり気にしないでくれよなっ!」
「えええええええっ!!!!そんなの絶対に無理だよっっ!!!!」
久々の学校をキョロキョロと見回しながら話してくれた順也の答えは、思っていた以上に外なものだった。
それが本当なら、これからもまだまだ自分は、大した理由も無いのに順也に怒られ続けるという事だろうか?
言った本人はあっけらかんとしているけれど、余りに衝撃的で納得出来ないその内容に、西原は回りに人がいるのも忘れて、思わず学校中に響く様な大声を出してしまった。
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