来客の相手は秘書の田淵を引き連れた家元の御園春也だった。
相変わらず和服姿で腰が低く、玄関に迎えに出た西原に向って、「先日は息子の鷹也が大変失礼しました」と謝罪しながら頭を下げてなかなか上げないので、西原はうっかり着けて出てしまったエプロン姿で、ほとほと困り果ててしまった。
「御用があるならこちらから伺いましたのに」
突然の思いがけない来客に慌てて母屋に戻って来た史也達が慌てて出迎えて、庭でのバーベキューはお開きになってしまった。
「もうっ!悪い方ではでは無いですけれど、間が悪すぎますわっ、せっかく家族水入らずで楽しんでいましたのにっ、何で急にお見えになったのかしらっ?」
「本当ですねぇ、来るなら是非先に一報欲しかったですねぇ、それが節度のある大人のマナーってものですよ」
「私、そりゃ順也ちゃんがいる間は仕方なかったですけれど、やっと智也さんの横に座って飲み始めたばかりでしたのよっ」
「私も、順也君がいなくなって、やっと翔也がまた相手をしてくれるようになったばかりだったんですねれどねぇ」
「しかも、まだお父様にお酌していませんでしたのに・・」
「あっ、それ、私は最初にしましたよ、でもお母上には機会が掴めなくてまだだったなぁ」
「はぁ・・きっと気の利かない嫁って思われましたわ、しかも、上がりこんで来るなんて、こちらはバーベキュー真っ最中でしたのよっ!」
「本当に、匂いで分かりそうなものなのに、空気の読めない人間は困りますねぇ」
史也と智也と翔也、それに小枝子は家元の相手に母屋へ戻ってしまい、残った西原と桜子と何故か三都葉も一緒になって、バーベキューの後片付けをする事になった。
余り後片付けには似つかわしくないイメージの桜子と三都葉に気を遣って、西原は自分1人で片付けると申し出たのだけれど、『1人だけエプロンなんかして良い嫁振るなんて10年早いっ!』と異口同音に叱られてしまった。
べつに『振って』エプロンをしているわけではないのだけれど・・・
真剣に家事の好きな西原は何だか不満だったけれど、それを口に上らせる勇気がある筈もなかった。
かなり楽しみにしていたらしいバーベキューを邪魔された二人は、酔っているのか、本気で怒っているのか、大人気ない文句をブーブーと言い続けて、雰囲気が剣呑なことこの上ない。
風向きがこっちに来る前にさっさと片付けて、順也の部屋に戻ろう。
不機嫌の矛先がこっちに向いたら、どんな酷い八つ当たりの目に合わされるか分からない。
これまでの体験を思い出し脅えた西原は、出来る限り気配を消して、手よりも口が忙しい、たまに残ったワインで自棄酒をしている二人を尻目に、黙々とテーブルの上を片付けていた。
「ねぇ、優希君、お家元は何の用事で訪ねていらっしゃったのかしら?」
「玄関にお出迎えしたんですよね、何か言っていませんでしたか?」
「え・・・さ、さぁ?」
「さあって、気の無い返事ねぇ」
「何かは言っていただろう?まだ物忘れをする歳でもないだろうし、しっかり思い出しなさい」
しかしそんな努力も虚しく、同じタイミングでクルリとこちらを向いた二人に、ジッと睨まれ質問責めに遭ってしまう。
「あっ・・・あの、何か順也に会いたかったみたいです、もう寝てしまったって言ったら凄く残念がっていました・・あと、おじさんや皆に謝りたい事があるって言っていました」
お客様の事を影でコソコソ話すのは行儀が悪いと思ったけれど、自分の身可愛さについ家元を客間に案内した時の会話をバラしてしまう。
「態々尋ねてきて順也君に話しですか・・ちょっと気になりますねぇ」
「しかも謝りたいって、色々謝らなくちゃならない事があるのは当然ですけれど、いきなり今で無くてもって感じですわよね」
「何か引っ掛かりますねぇ、さり気無く覗きに行きましょう」
「放っておくと悪い事が起きそうな気がしますわっ、通り掛った振りをして廊下で立ち聞きしましょうっ」
すると、二人はどれだけ家元の訪問理由が気になるのか、さっさと盗み聞きをする方向で意気投合してしまった。
大企業の社長令嬢と、由緒正しい医者一族の息子。
二人共、そこいら辺の人間よりは生まれも育ちも余程お上品な筈なのに、どうしてそういう話になるのか、西原にはまったく理解出来ない。
話しの内容が気になるのなら、後でその場に居た誰かに聞くのが常識だろし、そんな事が分からない歳でもないだろう。
「あっ・・・行ってらっしゃい」
取りあえず、そんなお行儀の悪い話に付き合う気にはなれいので、胸元で小さく手を振りながらそう言うと、
「何を言ってるのっ?!優希君が立ち聞きするに決まっているでしょうっ?この私が出来ると思って?」
「君がさり気無く覗かないで誰が覗くんだ?私かっ?!ははは・・まさかそんな事が出来るわけないだろう」
「ええええっ!嫌ですっ!そんなの絶対にしませんよっ!!後で誰かに聞けばいいじゃないですかっ」
「それじゃあ、遅い気がするのよっ!本当にボンヤリしてるわねっ、三男の嫁はっ!」
「手遅れになると困るんですよっ、分かりませんか?賢い顔が見掛け倒しの三男の嫁っ」
「ええええええええっ!」
しかし、やたらに偉そうな二人に意味深で飛んでもない任務を押し付けられて、そのまま両脇を羽交い絞めにされて、母屋までズリズリ連行されてしまったのだった。
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相変わらず和服姿で腰が低く、玄関に迎えに出た西原に向って、「先日は息子の鷹也が大変失礼しました」と謝罪しながら頭を下げてなかなか上げないので、西原はうっかり着けて出てしまったエプロン姿で、ほとほと困り果ててしまった。
「御用があるならこちらから伺いましたのに」
突然の思いがけない来客に慌てて母屋に戻って来た史也達が慌てて出迎えて、庭でのバーベキューはお開きになってしまった。
「もうっ!悪い方ではでは無いですけれど、間が悪すぎますわっ、せっかく家族水入らずで楽しんでいましたのにっ、何で急にお見えになったのかしらっ?」
「本当ですねぇ、来るなら是非先に一報欲しかったですねぇ、それが節度のある大人のマナーってものですよ」
「私、そりゃ順也ちゃんがいる間は仕方なかったですけれど、やっと智也さんの横に座って飲み始めたばかりでしたのよっ」
「私も、順也君がいなくなって、やっと翔也がまた相手をしてくれるようになったばかりだったんですねれどねぇ」
「しかも、まだお父様にお酌していませんでしたのに・・」
「あっ、それ、私は最初にしましたよ、でもお母上には機会が掴めなくてまだだったなぁ」
「はぁ・・きっと気の利かない嫁って思われましたわ、しかも、上がりこんで来るなんて、こちらはバーベキュー真っ最中でしたのよっ!」
「本当に、匂いで分かりそうなものなのに、空気の読めない人間は困りますねぇ」
史也と智也と翔也、それに小枝子は家元の相手に母屋へ戻ってしまい、残った西原と桜子と何故か三都葉も一緒になって、バーベキューの後片付けをする事になった。
余り後片付けには似つかわしくないイメージの桜子と三都葉に気を遣って、西原は自分1人で片付けると申し出たのだけれど、『1人だけエプロンなんかして良い嫁振るなんて10年早いっ!』と異口同音に叱られてしまった。
べつに『振って』エプロンをしているわけではないのだけれど・・・
真剣に家事の好きな西原は何だか不満だったけれど、それを口に上らせる勇気がある筈もなかった。
かなり楽しみにしていたらしいバーベキューを邪魔された二人は、酔っているのか、本気で怒っているのか、大人気ない文句をブーブーと言い続けて、雰囲気が剣呑なことこの上ない。
風向きがこっちに来る前にさっさと片付けて、順也の部屋に戻ろう。
不機嫌の矛先がこっちに向いたら、どんな酷い八つ当たりの目に合わされるか分からない。
これまでの体験を思い出し脅えた西原は、出来る限り気配を消して、手よりも口が忙しい、たまに残ったワインで自棄酒をしている二人を尻目に、黙々とテーブルの上を片付けていた。
「ねぇ、優希君、お家元は何の用事で訪ねていらっしゃったのかしら?」
「玄関にお出迎えしたんですよね、何か言っていませんでしたか?」
「え・・・さ、さぁ?」
「さあって、気の無い返事ねぇ」
「何かは言っていただろう?まだ物忘れをする歳でもないだろうし、しっかり思い出しなさい」
しかしそんな努力も虚しく、同じタイミングでクルリとこちらを向いた二人に、ジッと睨まれ質問責めに遭ってしまう。
「あっ・・・あの、何か順也に会いたかったみたいです、もう寝てしまったって言ったら凄く残念がっていました・・あと、おじさんや皆に謝りたい事があるって言っていました」
お客様の事を影でコソコソ話すのは行儀が悪いと思ったけれど、自分の身可愛さについ家元を客間に案内した時の会話をバラしてしまう。
「態々尋ねてきて順也君に話しですか・・ちょっと気になりますねぇ」
「しかも謝りたいって、色々謝らなくちゃならない事があるのは当然ですけれど、いきなり今で無くてもって感じですわよね」
「何か引っ掛かりますねぇ、さり気無く覗きに行きましょう」
「放っておくと悪い事が起きそうな気がしますわっ、通り掛った振りをして廊下で立ち聞きしましょうっ」
すると、二人はどれだけ家元の訪問理由が気になるのか、さっさと盗み聞きをする方向で意気投合してしまった。
大企業の社長令嬢と、由緒正しい医者一族の息子。
二人共、そこいら辺の人間よりは生まれも育ちも余程お上品な筈なのに、どうしてそういう話になるのか、西原にはまったく理解出来ない。
話しの内容が気になるのなら、後でその場に居た誰かに聞くのが常識だろし、そんな事が分からない歳でもないだろう。
「あっ・・・行ってらっしゃい」
取りあえず、そんなお行儀の悪い話に付き合う気にはなれいので、胸元で小さく手を振りながらそう言うと、
「何を言ってるのっ?!優希君が立ち聞きするに決まっているでしょうっ?この私が出来ると思って?」
「君がさり気無く覗かないで誰が覗くんだ?私かっ?!ははは・・まさかそんな事が出来るわけないだろう」
「ええええっ!嫌ですっ!そんなの絶対にしませんよっ!!後で誰かに聞けばいいじゃないですかっ」
「それじゃあ、遅い気がするのよっ!本当にボンヤリしてるわねっ、三男の嫁はっ!」
「手遅れになると困るんですよっ、分かりませんか?賢い顔が見掛け倒しの三男の嫁っ」
「ええええええええっ!」
しかし、やたらに偉そうな二人に意味深で飛んでもない任務を押し付けられて、そのまま両脇を羽交い絞めにされて、母屋までズリズリ連行されてしまったのだった。
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