西原&順也くんシリーズのブログです。 <登場人物> 西原 優希(さいばら ゆうき)日仏クォーター、才色兼備な中学2年の14歳。幼馴染の順也が大好き。 /鳳 順也(おおとり じゅんや)ちょっと小さいけれど、剣道チャンピオンのやっぱり14歳。綺麗で優しい西原が大好き。
「なぁ、西原」
「はい、何?順也」
「今日はこれから席替えがあるだろう?」
「うん、新学期だからきっとそうだね」
「今は西原と俺の席が遠いから次はもっと近いといいなっ、そうしたら授業中もきっと楽しいよなっ」
「あはは、うん、そうだね、授業中はお喋り出来ないけれど、近くに居れたらきっとそれだけで楽しいよね」
「んんんっ、絶対、西原の隣になりたいぞっ、なぁ、どうしたらなれると思う?」
「うーーーん、どうしたらって言ってもクジ引きだからね、引く時に手に気合を込めるとかしかないんじゃなかなぁ?」
「手に気合?どうやるんだ?」
「こう手に力を込めて、『良いクジが引けますようにっ』って強く念じるんだよ」
「んっ!分かったぞっ、んんんんんんんんんっ!西原の隣の席が引けますようにっ!」
「あはは、そうそう」
「んんんんんんんんんんんんんっ!」
「わぁっ!順也、まだ始めないでいいからっ、それから息はちゃんとしてねっ」

 迷惑なバラの花束のせいで、またプゥッとホッペタを膨らませた順也だったけれど、体育館から帰った頃にはすっかり元に戻っていた。
 始業式が終了した後、担任の羽田が来ない教室は、皆好き勝手に動き回っていて騒々しい。
 順也もトテトテと西原の席までやってきて、楽しそうにこれからある筈の席替えの話なんかをしている。
「西原も気合を込めて引いてくれよなっ!」
「はいはい、勿論頑張るよ」
 そう言いながら甘えて座っている西原の背中に抱きついてくる順也の暖かな体温を感じて、西原もまた幸せな気分になる。
 ああ、神様・・・今度こそ、もう順也の機嫌が悪くなりませんように。
 今度こそ迂闊な行動をしてしまって、順也を怒らせる事が無い様に気をつけようと気を引き締めた西原だった。
 だけれど、そんな今日数度目の西原の切なる願いも、努力する間もなくあっと言う間に粉砕されてしまう事になる。
「そうだ順也の宿題の『横浜遠足のしおり』、桜子さんが作ってくれたのを今朝預かって、俺が持ったままになってるんだった、きっとこれから集めるよね、今渡すからちょっと待っててね」
「んっ!待ってるぞっ」
「えっとね、確かこのカバンの中にクリアファイルに入れて・・・あった、はいこれっ、パソコンで作ってくれて凄く綺麗に出来てるよ、ちょっと立派に出来すぎかなぁ」
「んっ、ありがとうな」
「分かってると思うけれど、作って貰ったのは内緒だよ、今回は本当に特別なんだからね」
「んっ、分かってるぞ・・・・んんっ?」
「えっ?どうしたの・・・・はああああああっ!」
 順也が夏休みの最後に体調を崩してしまったせいで、間に合わなかった宿題の一つ。
 手間の掛かりそうなそれを、桜こに外注に出して、完成したそれを西原は今朝受け取ったのだ。
 そしてそのまま朝の慌しさに紛れて、自分の鞄に入れっぱなしのままにしていた。
 ちゃんとクリアファイルに挟まっているそれを、西原は順也に手渡そうとしたのだが、しかし渡したファイルの一番上に、何時の間に紛れ込んだのか、ピンクの封筒が一緒に挟まっていた。
―――西原優希君へ、お返事待って待っています
 封筒の上に書かれている丸文字を読んだ順也の顔がみるみる険しくなる。
「あはは・・こんなとこにまた落し物が・・・多いよね、落し物」
 崖っぷちの状況を何とか笑顔で乗り切ろうとした西原だったけれど、
「んんんん!西原ぁっっ!」
「うわぁ!もう許してぇぇぇ」
 努力も虚しく、またもや順也の不機嫌スイッチを入れてしまった。

 どうして、順也はそんなに『ヤキモチ』を妬くのだろう?
 ラブレター付き宿題を渡したところで担任の羽田が入ってきてしまったので、順也はホッペタを膨らませたまま自分の席に帰ってしまった。
 午前10:30分。
 学校に来てまだ2時間と経っていないのに、もう何度順也のムゥッと怒った顔を見た事だろう。
 順也は怒った顔も可愛いくて、すぐに機嫌が直ると分かっているけれど、それでも円らな大きい目で睨まれる度に、心臓に悪い事には変わりない。
 西原が教室の一番後ろの席で、順也は前から3番目。
 何時もより遠くに感じる順也の背中を見ながら、西原はつくづく不思議に思ってしまう。
 西原には順也しか大切なものはないし、順也以外の何もいらない。
 西原の存在の総ては、順也だけの為にある存在だった。
 今日だってそれを誓った印の指輪を順也は大切そうに胸に下げていているのに、どうして名前も知らない他の人間のことなんかを、そんなに気にするのだろうか。
 鷹也の事で順也に嘘をついてしまった西原に信用が無いと言ってしまえばそれまでかもしれない。
―――もっと自信を持って、堂々としていてくれればいいのになぁ・・
 順也を極度な『ヤキモチ』焼きにしてしまった原因は自分だと分かっていても、西原は何となく恨めしい気分になってしまう。



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2008.07.31(20:55)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・バザール
登場人物・・・海の国の第1王子 順也(今は人間)
        海の国の第2王子 翔也(今は人間)
        錬金術師 三都葉 



「モゲモゲ焼きを3個ですね、火が通るのに時間が掛かるんで、焼けるまで10分程お待ちください」
「んん〜、10分も待つのか、お腹が空いたぞっ!」
「オマエはぁ、さっきも変な串焼き食っただろう?今日は薬草の補充の為にバザールに来たのに、オマエの買い食いばっかで、ちっとも話が進まねぇじゃねぇかっ!」
「んんっ!でもお腹が空くからしょうがないぞっ、優希も好きなモノを買いなさいってお小遣いをくれたぞっ!」
「ははは、何だかバザール毎買い占められそうなお小遣いですね、あの王子様の金銭感覚は大丈夫ですか?まあ、今日はそんなに急ぐ買い物でも無いしゆっくりでかまいませんよ、モゲモゲ焼きとかが焼けるまで暇つぶしに近くの店でも覗いていましょうか」
「んっ、そうするぞっ、翔也兄さんはセカセカし過ぎだぞっ!ミジンコみたいだぞっ!」
「何だとぉっ!?」
「ははは・・・いいじゃないですか、翔也、今日は順也君が一緒なんだから、ゆっくりバザールを見物しましょう」
「ちっ!三都葉先生まで順也を甘やかさないでくれよっ、あっこら!順也っ、勝手に遠くに行くなっ!」

「んん?ここは何のお店だ?優希の絵が飾ってあるぞ?」
「おっ、本当だ、相変わらず胡散臭くニヤケた顔をしているけれど、良く似てるじゃねぇか、それにしても随分沢山あるな」
「ああ、ここは人気の俳優や歌手や踊り子似顔絵を置くお店ですよ、街の人間はお気に入りの相手の似顔絵を買って帰って自分の部屋に飾るんです」
「んん?優希は俳優でも歌手でも踊り子でもないぞっ、王子様だぞっ」
「そうですね、でも優希殿はあの通りのお見掛けですから、国民の間でも人気があるんですよ、特に若い女性には人気があって、下手な歌手や俳優なんか足元にも及ばないと思いますよ」
「ふぅん、そうなのか?じゃあ、俺も優希がお気に入りだから、この一番大きいのを買って帰って部屋に飾っていいか?」
「それは・・・普通に優希殿が嫌がりますから止めた方がいいと思いますよ・・」
「ケッ、こんな見掛け倒しの節操無し男の何処がいいんだか?こんなモノを部屋に飾りたがる奴の気がしれないね・・・ん?こりゃ何だ?何だかこの一枚だけ異質な感じだな」
「あっ!これ三都葉先生の家の図書室の本で見たから知ってるぞっ!えーーーと、『南方イボ猪』の牙が無いから雌の方だぞっ」
「ばーーーか、何で人間の肖像画の店に何でイボ猪の雌の絵が置いてあるんだよ、こりゃ一応人間だろう、派手な服も着てるし、不気味だけど笑ってるし・・・下に何か書いてあるな、えーと、『青い海の真珠姫フローリア』?はぁ?真珠姫ぇ?」
「んんっ、お母さんが若い時にそう呼ばれていたって言ってたぞっ、じゃあ、この絵は昔のお母さんかっ?」
「そんな訳ねぇーだろう!フローリアって書いてあるじゃねぇかっ!!俺たちのお袋は小枝子だろうがっ、そんな簡単なことを忘れんなっ!!」


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2008.07.28(07:45)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・隣国王城
登場人物・・・隣国王女 フローリア
        隣国国王




「フローリア姫・・今、隣の国の王から書簡が届いたぞ」
「まぁ!お父様、結婚の申し込みのお返事ねっ!もうっ、答えの決まっているお返事に随分時間が掛かったものねっ、フローリア、待ちくたびれたわっ!!それでっ、『降り注ぐ月光の王子優希様』とこの『青い海の真珠姫フローリア』との結婚の日取りは何時に決まったのかしらっ?お式は海の見える教会を新築して盛大にしようと思っているのよっ!!」
「う・・・む、それがな、王からの書簡によると、今回の姫と優希殿との縁談はお断りしたという事だ、残念だったな、フローリア姫」
「まあっ!まあっ、まあっ!!!どうしてですのっ?お父様っ?!フローリアと優希様、こんなにお似合いの二人はいませんわっ!フローリアはあの一曲のダンスで、優希様と結ばれる運命を感じましたのよっ?」
「オマエはそかもしれないけれどな、優希殿には別に思いを寄せる姫君がおられて、今はもうその方と一緒に暮らしていられるそうだ、だからオマエとの縁談は受けられないらしい」
「優希様と暮らしている姫君?そんな女がいるの?このフローリアと優希様の間に割って入るなんて、一体どこの国の姫なのかしら?」
「さあ、それは分からないが、何でも優希殿が海岸を散歩中に見初めた相手らしくて、それは可憐で愛らしい方らしいですよ」
「まぁ!可憐で愛らしい?それはこの『青い海の真珠姫』フローリアよりも?」
「ま・・まあ、それは無いだろうが、優希殿はその姫に夢中らしい、だからフローリア、この縁談は諦めなさい、代わりにもっと立派な王子を必ず見つけてやるからな」
「イヤッ!イヤですっ!!フローリアは優希様以外の男性に嫁ぎたくありませんっ!!それに、優希様に相応しい相手はこのフローリアだけですわっ!」
「そんな事を言っても、相手にまったくその気が無いんではなぁ・・」
「問題ありませんわっ!優希様は今、その得体の知れない女に騙されてちょっと目が曇ってしまっているだけですっ!それをフローリアが覚まして捧げれば良いだけの事ですわっ!」
「しかし、フローリア、そんな事をどうやって」
「勿論っ、直接出向いて説得いたしますわっ!その姫と並んで比べて頂ければ、優希様もきっと目を覚まされて、フローリアを花嫁に選んで下さいます」
「フローリア、いきなりそんな事をしたら相手にご迷惑では・・」
「お父様は黙っていらしてっ!これも真実の愛の為!!!多少の犠牲は仕方ありませんわ!!早速出発しますっ!誰か馬車の用意をしてちょうだいっっ!」


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2008.07.27(22:19)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
「丁度良かった、鳳、オマエに話があったんだ、そんなところで覗いてないで、こっちに来なさい」
「はいっ!」
 校庭が良く見える、校舎4階の数学準備室。
 この学校に数学教師は二人なので、二つ机があるの。
 その一つに座った羽田は当然数学教師で、その昔はこの中学の剣道部で智也の2学年先輩だった。
 今は剣道部の顧問をしていてくれて、西原と順也のクラスの担任でもある。
 まだまだ若くて、スポーツマンらしいサッパリした性格とスマートな外見をしているので、生徒が気安く話しかける事で出来る、人気のある先生だった。
 その羽田がチョイチョイと手招きすると、順也は素直に良い返事をして、テテテと部屋の中に入ってきた。
 でも、羽田の前まで行かず、西原の背中にピタリとくっつき、そこからジッと担任教師を見詰める。
「こらっ、順也っ!」
「ははは・・・もしかして久しぶりだから、人見知りされているのか?」
「ああっ、すみません、先生、順也、ちゃんと前に出てっ」
「んんっ、ここでいいぞっ!」
「良くないよっ、順也っ!」
「はは、鳳は本当にシャイだなぁ、さわやかでふてぶてしい鳳兄とは大違いだ、おーい、鳳、先生の事、夏休みで忘れちまったのか?」
「覚えてるぞっ」
「ならいいんだけどな、そんなにシャイだとこれからの話しがし辛いなぁ」
 羽田は順也の態度を怒ったりせずに楽しそうに笑いながら、でもかなり困った顔をした。

 羽田の話は、もうすぐ始まる体育館での始業式の事だった。
 全国中学剣道大会。
 夏休みの間、そこで順也が見事優勝を果たした時に貰った賞状と盾を、始業式の時に校長先生から渡して貰うので、名前を呼ばれたら前に出て舞台に上がれというのだ。
 順也は全国大会で小学校から続けて優勝し続けているので、これはもう2学期の始業式の恒例行事なのだが、恥ずかしがりやの順也はこれも恒例行事で毎年嫌がる。 
「なぁ、西原ぁ、どうしても前に出なきゃ駄目か?」
「そうだね、せっかく全国優勝の盾を校長先生が渡してくれるんだから、出ないと駄目だと思うよ」
「んん〜、でもやっぱり恥ずから舞台の上なんか乗りたくないぞっ!」
「そんな事言わないで、皆きっと拍手してくれるよ、花束もくれるみたいだし、順也は凄い事をしたんだから胸を張って行っておいで」
「拍手なんかいらないぞっ、優勝なんかしなければ良かったぞっ!」
「順也っ!試合に出た人皆が優勝したかったのに、そんな事絶対に言ったらだめだよっ」
「んん〜、じゃあ出るけど西原も一緒に出てくれるか?」
「え?俺?俺は関係なから無理だと思うよ」
「でも、今までは出てくれたぞっ、今年も一緒がいいぞっ、なぁ、西原ぁ」
「今まではそうだけど、順也ももう大きいんだから何時までもはおかしいよ?」
「んんんんんっ!じゃあやっぱり出ないっ!」
「はぁ・・、じゃあ舞台の下までね、そこから先は1人で行くんだよ」
 数学準備室から体育館に移動する間の廊下。
 直ぐに始業式が始まるので人気の無いそこで、駄々を捏ねる順也を西原は何とか宥める。
 順也が一度不機嫌になって、ずっとそのままなら西原もやっていられないかもしれない。
 でも、流石に『もう怒っていない』と自分で言い切るだけあって、その不機嫌は長続きしなかった。
 今もちょっと前に不機嫌だった事は忘れてしまい、西原の腕にぶら下がって、甘えてた顔でずっと西原を見上げてくる。
―――ああ、もう2度とこのまま順也の機嫌が悪くなりませんように
 西原は順也に向ける笑顔の裏で必死にそう願いながら、体育館へ続く渡り廊下へと脚を向けた。

 しかし、そんな西原の切なる願いも、30分後には見事に破られる。
「でわ、みなさんもう一度、鳳君に拍手を送りましょう、鳳君、おめでとうございました」
 舞台の上で、校長がそう言って、体育館に響き渡る拍手の中、順也はやっと舞台から下りる事を許された。
「んんんっ!西原ぁ」
 約束なので、舞台の下で顧問の羽田の横にさり気無く並んでいた西原に向かって転がる様に駆け寄ってきて、手に持たされた盾と賞状と花束を西原に押し付けて、一刻も早く西原の背中に隠れようとする。
「はい、ご苦労様だったね、順也」
「西原、賞状と盾はしばらく玄関に飾るからこっちに貸してくれ」
「はい・・・えっと花束は?」
「それは、家に持って帰っていいと思うぞ」
 言われるままに盾と賞状を羽田に渡し、さあ一刻も早く順也を連れて帰ろうと、誰が選んだのか、無意味に大袈裟なで場違いな感じの薔薇の花束を腕に抱え直した。
 そして、帰る前に一応は一礼しようと生徒の方に顔を向けると、何だかざわついていた生徒の列から、
「キャーーーーーーーっ!!!」
「イヤーーーッ凄くカッコイイ!!!」
「イヤーーーーンッ!西原君、似合いすぎっっ!」
「西原クーーーーンッ!西原クーーーーンッッ!」
「先輩ぃぃ!こっち向いて下さーーーーいっっ!!!」
 弾けた様に耳障りな黄色い感性が上がる。
「は?何事??」
 いきなり何が起きたか分からずに、西原は花束と歓声が上がる生徒の列を見比べてオロオロしてしまうけれど、
「んんんっ!西原ぁぁ!」
「うあああ!またなのっっ?!今のは俺何もしてなよっ?」
 名前を呼ばれてハッと振り返った先で順也がまた恐い顔でこちらを睨んでいて、朝から際限なく繰り返される手の付けようの無い悪循環を前に、本気で頭痛を感じて頭を抱えてしまった。



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2008.07.27(15:36)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・大公爵邸玄関ホール
登場人物・・・大公爵の御曹司 西原優希
        大公爵夫人 優希の母



「優希さん、こんな遅くにお出掛け?今、お帰りになられたばかりじゃなかったかしら?」
「あっ、ただいま帰りました、お母さん、そうなんですけど、順也が昨日の晩、三都葉殿の家に順也が遊びに行ったきり帰っていないみたいなので、迎えに行ってきます」
「まぁ?こんな時間に?もう遅いし、お迎えは明日の朝でいいんじゃないかしら?三都葉さんの家なら心配はいらないでしょうし」
「いえっ、そう言って昨日も帰って来なかったし、今日は迎えに行きますっ」
「でも今、順也ちゃんのお兄さんが遠くの国からいらしているんでしょう?せっかくの兄弟水入らずを邪魔してしまうんじゃないかしら?」
「いえっ!俺との水入らずも大切なんで迎えに行きますっ」
「順也ちゃん、夜は直ぐにお眠になってしまうから、もう寝てしまっているかもしれないわ」
「抱っこして帰れば大丈夫なんで迎えに行きますっ」
「はぁ・・・優希さん、じゃあ、可愛い恋人をお迎えに行けばいいけれど・・」
「はいっ、行ってきます!」
「余りしつこいと嫌われるわよ・・」
「うっ!!!!!!!!」

「じ・・・じゃあ・・・行ってきます・・うう・・」
「あら、優希さん、ちょっと待って、声を掛けたのは用事があったのよ」
「ううぅ、はい・・何でしょう?」
「兄さん・・・国王陛下からの確認なんだけれど、隣国のフローリア姫の縁談はお断りしちゃっていいのよね?」
「また、その話ですか?陛下にはこの前はっきり断わりましたよ」
「私も、優希さんには順也ちゃんがいるから断わっていいって言ったんだけれど、相手が優希さんを気に入ってしまって、もう一度お見合いさせてくれってしつこいらしいのよ」
「お見合いって、前のだって舞踏会で無理矢理合わされて、一曲ダンスを踊っただけじゃないですか、俺はそんな事した覚えはありませんよ」
「そうよねぇ・・、まあ、一応条件だけはいいお見合いだったから確認しただけよ、陛下には断わってくれるように頼んでおくわ、ちなみに、もう一度お見合いだけでもっていうのも嫌よね?」
「嫌ですよ、性格も我侭で独創的でついていけないし、それにあの姫を見ていると遠近感がおかしくなって、目が回って来るんです」
「ほほほ・・それは私も分かるわ、でも何故かしら?」
「頭が必要以上に大きいんですよ、そこに化粧も濃いし、髪型も盛りがいいし、それなのに身体が目立たな過ぎて、遠くにいるか近くにいるか判断が難しいんです」
「なる程そうだったのね、判り易いわ・・・でも、優希さんにしては珍しく辛辣ねぇ、そんなにお嫌い?」
「そうですね・・でもあのキツイ性格はちょっと・・南方イボ猪似の浅黒い顔もちょっと・・小さいのにガッチリしている身体もちょっと・・」
「うふふ・・優希さんのど真ん中好みのタイプは、華奢で色白な順也ちゃんですものね、私もお嫁さんなら可愛い順也ちゃんの方が絶対いいし、それじゃあ再度お見合いも断わっておくわね」
「すみませんけれど、よろしくお願いします、じゃあ、順也を迎えに行ってきます」
「ほほほ・・・行ってらっしゃい、今度、順也ちゃんのお兄さんも我が家にお誘いしてね、やっぱり順也ちゃんみたいに可愛いのかしら?」
「可愛いと言うかかっこ良くてハンサムですよ、俺も誘っているんで近いうちに遊びに来てくれると思います」
「まぁ、楽しみだわ」
「あっ、お母さん、お見合いの話は絶対に順也の耳には入れないで下さいねっ、それからお父さんや陛下にもそこは念押ししておいて下さいねっ」
「はいはい、順也ちゃんを驚かせたら可愛そうですものね、ちゃんと分かっているわ」


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2008.07.26(02:14)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
「ねえ、順也、そう言われても、『イライラする癖』なんて、それはやっぱり気にするよ」
「しないでくれよなっ」
「そんな事言ったって・・あっ、順也にそんな変な癖がついちゃうなんて、きっと間話し合いがまだ足りなかったんだね、そうだっ、今日は学校は午前中だし、放課後マンションに行ってもう一度じっくり話し合おう」
「オマエのマンションに行くのはいいけど、もう話し合わなくていいぞっ!俺は全然怒ってないんだから、そんなのむーみんだぞっ」
「それを言うなら無意味だよ」
「んっ、無意味だぞっ」
「そうそう・・って、でもそれは全然無意味じゃないからっ、お願いだから話し合おうよ、ねっ、順也っ」
「無意味だぞっ!」
「ううううう・・」
順也と西原は悲しい位に噛み合わない押し問答をしながら校庭の端を横切り、昇降口の靴箱の前まで来た。

―――俺が怒ってもあんまり気にしないでくれよなっ
 いくら本人にそう言われても、素直に『ああ、そうですか』と聞ける分けが無いし、突発的にイライラする物騒な癖を放って置けるわけも無い。
 なので、身長に対して少し高めのところに在る自分の下駄箱を覗き込んでいる順也の後ろに立ち、
「あのっ、朝までは平気そうだったよね、なのにどうして今日急にそうなったのかな?」
 西原はせめて急にそんな気分になった理由を聞こうと食い下がってみる。
 正しい理由が分かれば、早期解決の道が開けるかと思ったのだけれど、
「ん〜、学校には沢山オマエを好きな人間がいるからだと思うぞ、そういう人がいなかったらきっと普通に戻ると思うぞ」
 履いてきたスニーカーを脱いで、持って来た新しい上履きに履き替えてる順也は、上履きのつま先をテンテンと床に着く愛らしい仕草をしながら、結構絶望的な事を言った。

 順也の言っている事を要約すれば『この学校に西原を好きな人間がいるうちは機嫌が悪いけれどよろしく』という事になる。
 自分で言うのもなんだけれど、自分を好だという人間は、この学校には山の様にいた。
 三都葉にからかわれた通りに、馬鹿馬鹿しい告白の行列が出来た事も一度や二度ではなくて、その人間が居なくなる事なんて、放っておいても起きる筈がない。
 もしかして大量虐殺を示唆されているんだろうか?
 まったく解決策の見えない西原は、思わず物騒な妄想に捕らわれそうになってしまう。
―――とにかくっ!俺が誰かに好かれている状況をみせなければいいんだっ
 明確な答えも分からないまま、とにかくこれからは、絶対に告白の為の呼び出しには応じないし、なるべく女子には関わらないようにしようと西原は心に決める。
 しかし、そう決意し、自分も上履きに履き替えようと下駄箱を開けると、
―――ドサドサーーッ、ボトボトーーッ!
 途端に中から大量の手紙やらプレゼントやがら、ドーーッと雪崩を起こして落ちてきて、
「んんんっ!」
「あああっ!」
 焦って横を見ると、案の定また眉を顰めた順也がジッとこちらを見て立っていで、またいい感じでイライラする癖が出てしてしまっている様子だった。
「あ・・・ははは・・・何だろうね、これ、誰かの落し物かな?」
 不機嫌丸出しの順也に向って慌てて苦しい言い訳をした西原は、途方に暮れてもうこの世から消えてしまいたい気分になった。

「羽田先生っ、おはようございますっ、落し物です、預かってください!」
「お?おはよう、西原、こんな新学期の朝から落とし物って一体・・・おおおっ!随分大量だな、何処に落ちてたんだ?」
「俺の下駄箱とロッカーと机の中ですっ」
「・・・・え、えーとな西原、そういうのは落し物って言わないと、先生思うけれどなぁ」
「いいえっ!俺の私物を入れるスペースに、俺の物じゃ無い物が入っているんだから落とし物ですっ、そうに決まってす!」
「決まってますっじゃなくて、どれもこれもオマエへのおプレゼントやラブレターだろう?送り主が夏休み中に選んだり書いたりした物じゃないか?旅行の土産みたいなのもあるぞ、どれにも『西原優希君へ』て、可愛い字で書いてあるじゃないか」
「世の中に西原優希君は俺1人ですかっ!他の西原優希君宛かもしれないじゃないですかっ!」
「いや、他の奴の事は知らないけれど、この学校で西原と言えばオマエ1人だろう、そんなに嫌がらないで受け取るくらいくらいしてやったどうだ?好意の印だぞ?ありがたいじゃないか」
「好意の印でも、ありがたくもありません!とにかく預かって、速やかに持ち主に返却してくださいっ」
「無茶言うなぁ・・・まあ、オマエの屁理屈も一理あるし預かる事は預かるけれどな、代わりにこれ、落し物の拾得届け、『拾った場所と、拾った物と、オマエの学年、クラス、出席番号、名前』キチンと書いておいてくれよ」
「うっ、全部の分ですか?」
「はい、勿論全部の分ですよ、嫌なら諦めて持って帰れ・・ところでなぁ、西原副部長」
「はい、何でしょう?」
「ドアの陰から鳳が恐い顔でずぅっとこっちを見ているけれど、あれは何をしているんだ?相手を威圧する新しい剣道の稽古方か?ならば顧問として詳しく知りたいなぁ」
「うううう・・・うううううっ・・だって、今日に限ってあっちからもこっちからも、開ける度に色々出てくるんですっ、俺に悪気はないんですぅぅ!」
「うわっ、どうしたっ、急に泣くなっ副部長っ!聞いて悪かったよっ!何だか知らないけれど新学期早々大変そうだなぁ・・」


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2008.07.25(00:27)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
 剣道部の部室は、体育館の裏にある運動部の部室が集まる部室棟の2階にあった。
 体育館の陰で日当たりの悪い建物は、古い上に部屋は陸上部と共有で、床は土足だしお世辞にも快適とは言えない。
 でも、かさ張る剣道の道具を置いておく事が出来るので、あるだけで有難かった。
「順也っ!待って、何怒っているのっ?」
 他に誰か居てもおかしくないのだが、始業式の前のせいなのか部室棟には人影がない。
 無人の階段を上がり、ドンドンと大股で歩いていってしまう順也を追いかけて、西原は部室へ足を踏み入れた。
―――ドンッ
 部屋に入ると順也は振り向きもしないで、部屋の真ん中にある大きなテーブルに乱暴に防具の袋を下ろした。
「あ・・・順也、あの、俺何か悪い事した?」
 小さな背中を見ただけでその不機嫌さが伝わってくる。
 西原は顔を見せてくれない順也の後ろに立ち、オロオロと話しかけた。
 ついさっき、車を降りるまではあんなに上機嫌だったのに、どうしてこんな事になってしまったのか分からない。
 また順也を怒らせてしまった。
 どうしよう?どうしよう?どうしよう?
 また口も利いてもらえなくし、部屋にも入れて貰えなくなる。
 つい数日前までの悲しい記憶を思い出し、西原は朝から今にも泣きそうになってしまう。 

「あ・・・っ、校門で騒いだのはゴメンネ、でもあれは翔也さんが・・その悪いと思うし・・」
 さっきの事はどう考えても悪いのは翔也の方で、順也だってそれが分からない筈がない。
 それが腹を立てている理由とは思わないけれど、他に順也の機嫌が悪くなる心当たりも無くて、翔也を悪者にして悪いと思いながらも、取りあえず謝ってみる。
 きっと効果はないんだろなぁ、次はどうしよう?
 言ってはみたけれど余り結果を期待していなくて、何時再び『あっちに行ってくれよなっ』と言われてしまうのかと戦々恐々していた西原だったけれど、
「んっ・・・知ってるぞ・・怒ってゴメンな西原ぁ・・」
 予想に反して何故だか効果はバツグンで、クルリと振り向いた順也はそう言いながら、パフンと西原の胸に飛び込んで来た。
「え・・?あれ・・?えっ?」
 今まで怒っていたと思っていたのにいきなり謝られてしまい、話の展開に西原はついていけない。
 でも、取りあえず順也の機嫌が直ったのは確かな様で、
「西原ぁ、怒ってゴメンなのキスぅ」
「あっ・・はいはいっ」
 安堵した西原は順也に言われるがままに、見上げて来る甘えた顔の頬を手で小さく撫でてから、その腰に手を回して引き寄せて、そっと唇を重ねたのだった。

「あのね、順也、どうしてさっきは怒ったの?」
 部室から教室に移動する道すがら、西原はキスですっかり機嫌の直った順也に、どうして急に怒り出したのか、その理由を尋ねてみた。
 話を蒸し返すのは何だか恐い気もするけれど、怒ったきっかけが分からないのはもっと恐い。
「ん?あのな、俺もどうしてか考えたんだけれど、さっき翔也兄さんが、西原の好きな女の子の事を聞いてただろう?」
「俺の好きな女の子じゃなくて、好きなタイプを聞いてたんだよっ、それに俺が好きなのは順也だけだから、答えられるものならちゃんとそう答えてたよっ」
「んっ、そうだけど、翔也兄さんがしつこく聞いてるから、いるとしたらどんな子かなぁってちょっと試しに想像したら、何かもの凄くイライラしてきたんだぞ」
「試しに想像・・・それで、怒ってたの?」
「そうだぞ、こういうの、『ヤモキチ』って言うんだよなっ」
「それを言うなら『ヤキモチ』だよ、順也」
「んっ、その『ヤキモチ』っ、あのな鷹也さんの時の事でも、俺、『ヤキモチ』妬いただろう?」
「あは・・・あはは・・・そうかな?そうだったね、なかなか激しかったかも・・で、でもそれと今日の事は余り関係ないんじゃない?」
「そうだけどな、でもな、その時の『ヤキモチ』が何だか癖になってるだけみたいなんだぞっ」
「くっ癖?」
「んっ、何かなオマエと他の誰かの事を一緒に考えると、どうでもいい事で怒りたくなって、ちょっとした事でイライラするぞっ」
「どうでもいいって分かってるのにイライラッ?!」
「そうだぞ、でもどうでもいいからそのうち治ると思うし、それまで俺が怒ってもあんまり気にしないでくれよなっ!」
「えええええええっ!!!!そんなの絶対に無理だよっっ!!!!」
 久々の学校をキョロキョロと見回しながら話してくれた順也の答えは、思っていた以上に外なものだった。
 それが本当なら、これからもまだまだ自分は、大した理由も無いのに順也に怒られ続けるという事だろうか?
 言った本人はあっけらかんとしているけれど、余りに衝撃的で納得出来ないその内容に、西原は回りに人がいるのも忘れて、思わず学校中に響く様な大声を出してしまった。



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2008.07.24(08:19)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・大公爵邸勝手口
登場人物・・・召使  ケント
        錬金術師 三都葉



「ケント君」
「あっ、三都葉様、いらっしゃいませ、こんな夜中にどうなさったんですか?」
「はい・・・ちょっとお尋ねしたい事がありまして、優希様と順也君はまだ起きてらっしゃいますか?」
「あっ、はい・・えっと、今、お客様がいらっしゃっていますけれど、急用でしょうか?」
「こんな夜中にお客・・そのお客というのはもしかして、順也君のお兄さんですか?」
「えっ?あの・・えっと・・」
「そうなんですね?」
「は・・はい、どうして御そん知なんですか?」
「はぁ・・・やっぱりここでしたか、あのですね、順也君のお兄さんの翔也君に、ご家族から捜索願いが出ているんですよ」
「捜索願い・・・ですか?」

場所・・・海辺の岩場
登場人物・・・大公爵の御曹司 西原優希
        海の国の第2王子 翔也(人魚)
        錬金術師 三都葉 



「げっ!もうバレてんのかよっ!早ぇぇなぁぁ!」
「今すぐ帰って来いと、お兄さんと桜子さんから伝言が届いています」
「うえぇ・・・怒ってるのかなぁ?」
「そりゃもう、今回は手紙ではなくて、桜子さんの水鏡での緊急通信でしたよ」
「え?桜子の奴、魔力が戻ったのか?」
「短い時間でしたけれどね、思わず魔力が戻る位怒っていたんじゃないですか?」
「うぎゃぁぁぁぁっ!絶対ぇっ戻りたくねぇっっ!!!」


場所・・・海辺の岩場(次の朝)
登場人物・・・大公爵の御曹司 西原優希
        海の国の第2王子 翔也(人魚)
        錬金術師 三都葉 



「本当にいいんですか?翔也君」
「いい、いい、今帰ったら、どんだけ説教されるか分んねぇから、一時こっちにいる事にするぜ、戻る時は『人魚に戻る実』、三都葉さんが作ってくれんだろう?」
「はい、桜子さんに作り方を教えたのは私ですから、それは問題はありませんよ」
「じゃあ飲むからその『人間になる実』をくれよな」
「翔也兄さんっ!ずっとこっちにいてくれるのか?」
「ああ、兄貴の怒りが有耶無耶になるまでなっ」
「じゃあ、俺の部屋に住んでくれよなっ!あそこの崖の上に見える家を、優希のお母さんから貰ったんだぞっ」
「うん、それがいいね順也、それで順也は俺の部屋に戻ろう、もう是非いらっしゃってくださいっ、お兄さんっ!」
「だ・れ・がっ!お兄さんだっ、オマエの家になんか絶対ぇ世話にはなんねぇよっ!」
「え・・・でも、それじゃあ何処に住むんですか?」
「翔也兄さん、それじゃあ住所不定無職だぞっ」
「誰が住所不定無職だっ!住む場所はちゃんと決まってんぜ、三都葉さんの家だよ、三都葉さんの弟子にして貰って魔術の修行をして帰る事にしたんだ」
「んん?魔法??」
「そう、桜子見てると便利そうだし、ずっと興味があったんだよなぁ」
「魔法で泳ぐのを上手にするのか?」
「違ぇーーよっ!」
「ははは・・私の弟子になるのは構いませんけれど、それなら桜子さんに教われば良かったではないですか、彼女は兄弟弟子の中でもずば抜けて優秀でしたよ?」
「とーーーーんでもないっ!アイツの弟子なんかになったら、水晶に当たり過ぎて、頭が幾つあっても足りねぇよっ!」
「水晶に当る・・・って、何ですか三都葉殿?」
「さあ?ははは・・何でしょうねぇ?海の底は不思議です、まあいいです、こんな弟子なら大歓迎ですから、さあでは翔也君、『人間になる実』をどうぞ」
「おうっ!頂くぜっ!」


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2008.07.23(07:46)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
 中学の正門の前に三都葉の車が滑り込む。
「送って下さってありがとうございました、三都葉先生、翔也さん」
「ありがとうございましたっ」
「いえいえ、どういたしまして、今トランク開けますからね」
「しょうがねぇな、下ろすの手伝ってやるよ」
丁度登校のピークの時間で、道の脇に車を寄せて、トランクから荷物を下ろしていると、
「おはようございますっ、西原先輩っ」
「おはようございまーす」
「おはよう西原君っ」
「おはようっ、西原くーん」
 近くを通りかかる女生徒達が、次々に声を掛けては『キャー挨拶しちゃった』だの、『やっぱりカッコイイ』だの『返事してくれた』だの興奮した声で騒ぎ立てながら、挨拶の返事も聞かずに走り去って行く。
「あ・・はい・・おはよう・・はい・・はい・・」
 特に見知った相手でも無いし、返事も聞く気も無さそうなので、西原が適当な返事を返していると、
「流石優希はモテモテのモテ男君だなぁ」
「いやいや、すざましいですねぇ、私も昔はそれなりだったんですけれど、やっぱり優希君は別格ですねぇ」
「しかも皆、可愛いじゃねぇかっ、告白とか毎日バンバンされてんだろっ?」
「放課後の屋上で行列とか出来そうですよねぇ」
 翔也と三都葉から口々にからかわれてしまうのだった。

「はぁ・・・あはは・・・」
 何処かで見ていたんだろうか?
 確かに二人に言う事は当らずしも遠からずなのだが、だからと言って言われて嬉しいわけでも、それが自慢なわけでもない。
 むしろ知らない人間に呼び出されて、時間ばかり取られて、鬱陶しくて迷惑なだけだ。
「何が『あはは』だよ、澄ました顔しやがって、気になる子くらいいんだろう?どんなのがタイプなんだよっ?翔也兄さんに教えてみ?」
 なので、笑って受け流そうとするのだが、更に調子に乗った翔也が大声でそう聞きながら腕を回して首を絞めてくる。
「もうっ!止めてくださいっ、苦しいですよっ!翔也さん!」
「照れんなよぉ、教えろよぉ」
 直ぐ道の向うには、先生も何人か立ってこちらを見ているし、周囲には物珍しそうな顔の生徒の輪が出来初めている。
 そんな注目の中心で恥ずかしくて西原は翔也の腕を解こうとバタバタと暴れた。
 
 どうしてこの人はたまにどうしようもなく子供になるのだろう?
 何故かテンションの高い翔也に思い切り困惑しながら、大人気ない力で首を絞めてくるその手を解こうと西原は四苦八苦してしまう。
 その間、三都葉は「ははは・・」と楽しそうに笑っていて、順也はと言うと、ちょっと眉を顰めた硬い表情で、車から下ろした荷物を抱えてポツンと三都葉の横に立っていた。
 家では元気で我侭が可愛い順也だけれど、一度外に出ると人見知りの引っ込み思案に変身してしまう。
 今もこんなに注目されてしまって、きっと恥ずかしくて溜まらないに違いない。
「もうっ、学校の近くで止めて下さいっ!」
 そんな順也の気持ちを慮って、西原は思い切って翔也の腕を振り払った。
 そんな事をして、もしかしたら後で翔也にもっと苛められるかもしれないけれど、順也の恥ずかしがり屋さんの繊細な気持ちには代えられない。
「順也、お待たせ、もう行こうねっ」
「こらっ!優希っ逃げんなっ!俺の質問に答えてから行けっ」
 案の定、ブーブー言う翔也の声を背中に聞きながら、西原は順也の背中に手を掛けようとした。
「いいっ!1人で行くっ」
 しかし、順也はその手をすり抜けて、そう言い残し、荷物を両手一杯に抱えてタカタカと校門の方へ走り出してしまうだった。
 登校初日にいきなりこんな目に会って、順也の機嫌が悪くなるのは理解出来る。
 でも、その声が想像以上に棘のある響きを含んでいる気がして、
「順也っ!待ってっ!少し荷物持つよっ・・あっ、送ってくださってありがとうございましたっ、行って来ますっ」
 驚いた西原は自分の荷物を拾い上げて、一応もう一度翔也と三都葉にお礼を言ってから、声を掛けても振り返らない白いシャツの背中を大慌てで追いかけた。


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2008.07.22(23:14)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・海辺の岩場
登場人物・・・大公爵の御曹司 西原優希
        海の国の第2王子 翔也(人魚)



「スミマセン、スミマセン、スミマセーーーンっ!!!!」
「何度謝ったて許すかっ!いきなり殴りやがってっ!!!!後ろの岩に頭ぶつけたぞっ、まだ目の前に星が出てるじゃねぇーかっ!」
「本当にスミマセンっっ!順也のお兄さんだなんて知らなくて・・おっ、お怪我はありませんかっっ!?」
「してるよっ!すっげぇっったんこぶになってるわっ!!」
「あああ、スミマセン、お兄さんっ、お医者、今すぐお医者を呼びますっ!」
「誰がテメェのお兄さんだっ!気安く呼ぶなっ!それに医者なんかいらねーーよっ!俺が何だと思ってるんだっ!?!」
「あああ・・・っ、そうですねっ、そうですよねっ、どっちですかっっ?」
「あ?何がどっちだよ?」
「呼ぶのは人間のお医者ですか?それともお魚のお医者ですかかっ?」
「どっちもいんねーよっ!つーか、お魚の医者ってなんだよっ!いるんなら呼んでみろっ!!このアホ王子っっ!!」
「あああああっ!スミマセーーーーンっ!!!」


場所・・・海辺の岩場
登場人物・・・海の国の第3王子 順也(今は人間)
召使 ケント


「はぁ・・・順也様のお兄様は人魚だったんですね」
「んっ、そうだぞっ、翔也兄さんは泳ぎの下手な人魚だぞっ」
「え?何かそれは・・・『あり』なんですか?」
「ギリギリで『あり』だぞっ!」
「あはは・・そうですか?あの・・じゃあ、順也様も・・その、もしかして人魚なんですか?」
「んっ!そうだぞっ、魔女の桜子姉さんの魔法で人間にして貰ったんだぞっ」
「そうだったんですか・・・」
「内緒だったけどバレたなら仕方ないぞっ、なぁ、ケント君」
「はい、何ですか?順也様」
「智也兄さん達は俺が人魚だってバレたら人間はきっと俺を気味悪がるって言ってたけれど、ケント君は俺が気味悪いか?」
「いえ、順也様、不思議な方だなぁと思っていたので、順也様が人魚だと分かってその理由は納得出来ましたけど、別に気味悪くはありませんよ」
「そうか、それならよかったぞっ!」
「はい、どうかご心配無く、お兄様はここから動けないんですよね、俺、ちょっとお屋敷に戻ってお茶をここまで持ってきますね」
「んっ!ありがとうなっ、でもその前に、なぁ、ケント君」
「はい、何ですか?」
「優希は・・・優希も俺のことを気味悪いって思わないか?」
「あはは、順也様ご安心下さい、そんな事それこそ転地がひっくり返っても有り得ませんよ」


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2008.07.22(08:01)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
「なぁ、西原ぁ」
「はい、何、順也?裸でいないで早く制服に着替えて、学校に遅れちゃうよ」
「ん、今着るぞっ、それよりあのなっ、この西原の指輪、学校にしていっていいか?」
「ええっ、そんなの駄目だよっ」
「ちゃんと鎖で首に掛けるぞっ!オマエの指輪だし、ずっと持ってたいぞっ!」
「うん、でも人に見つかったら何て言うの?」
「ん〜と、『桜子姉さんがフランスで買ってきてくれた幸運のお守り』っ」
「ああ、そうだね、桜子さん考えてくれたその言い訳で何か皆それで納得しちゃうもんね、じゃあなるべく見つからないように、あと絶対に外さないようにしてね」
「んっ、分かったぞ!なぁ、西原ぁ」
「はいはい、今度は何?まだ朝ご飯も食べるんだから早く制服着ちゃって」
「んっ、でもその前に玄関じゃ出来ないから『行ってきます』のキスしておいてくれよなっ!」
「えっ?あはは・・そうだね、玄関じゃ出来ないから今しておこうね、でも二人で一緒に出掛けるのに『行ってきます』はちょっと変じゃない?」
「んんっ、別に大丈夫だぞっ、細かい事は気にしちゃ駄目だぞっっ!」
 夏休みが明けたその日の朝。
 始まりは至極順調だった。
 前夜のお酒もしっかり抜けた順也は元気に朝稽古をこなして、すこぶる機嫌が良い。
 ニコニコ元気な順也を前にして、西原の機嫌も悪い筈は無かった。
―――ああ、良い一日になりそうだなぁ・・
 順也の笑顔がそこにある。
 ただそれだけで、西原のは自分の未来がバラ色に染まって見えてしまう。
 しかし、それは幻想だという事を、恋人同士になった順也と初めて学校に行くこの日、嫌という程思い知る事になるのだった。

「行ってきますっ!」
「いっています」
 AM8:00、今日も朝から良い天気で空が青い。
「行ってらっしゃい、順也ちゃん、優希ちゃん、忘れ物はない?」
「んっ!大丈夫だぞっ、なぁ、西原っ」
「はい、全部持ちました」
「久しぶりの学校頑張ってね、いってらっしゃい、順也ちゃん、優希君」
 玄関まで見送ってくれた小枝こと、昨日の晩は泊まったので朝から家に居る桜子に手を振って、西原は順也と並んで家の玄関を出た。
 そして、家の裏の駐車場に止まっている黒塗りの車の後部座席に乗り込む。
「お待たせしました、三都葉先生、翔也さん」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「出発するぜ、忘れ物はねぇか?」
「はい、大丈夫です」
「んんっ!さっきもお母さんに聞かれたぞっ!翔也兄さんはしつこいぞっ!」
「心配してやってんだろうがっ!それに俺は一度目だぞっ、しつこいとか言うなっ!」
「んんん〜、西原ぁ、翔也兄さんが朝から怒りっぽいぞ」
「あはは・・・じ、順也っ」
「優希ぃ!てめぇの教育が悪いっ!!!!」
「ああああ、スミマセン、スミマセン」
「ははは・・・問題無いみたいだから出発しますよ」
 車の中には先に乗っていた翔也と三都葉が待っていた。
 新しい病院の開院準備が架橋なので今日はもう仕事に行くという、昨日の晩はやはりこの家に泊まった三都葉と、今日は大学の図書館でレポートのラストスパートを頑張るという翔也。
 今日は学校まで二人が出掛ける車に乗せて貰える事になったのだ。
 登校初日のこの日。
 宿題やら、持ち帰っていた部活の道具をまた持ち込むやらで、意外と荷物が多いい。
 玄関に山積になった荷物の量に西原はちょっとウンザリしていたので、送って貰える事になり本当に助かった。
「荷物が沢山あったから良かったな、西原ぁ」
「そうだね、順也」
 朝の街を静かに駆け抜ける高級車の涼しい後部座席で、順也は引き続きニコニコと機嫌が良い。
 勿論、服装は真っ白な半そでワイシャツと黒い学生ズボンの制服姿だ。
 どんな格好も可愛い順也だけれど、ピッチリとストイックな制服姿はやはり絶品だった。
―――ああ、新学期ってもの凄くいいなぁ
 西原がしまりの無い顔で、久々の愛らしい制服を堪能しているうちに、車はあっと言う間に西原達の通う中学校の前に到着した。

「チッ!順也ちゃんは私が送って行こうと思っていたのに、美味しいところを持っていかれたわ、三都葉先生、後で覚えてらっしゃいっ!後、ヘラヘラ嬉しそうに車に乗っちゃった優希君もついでに覚えてらっしゃいっ!」
「あら?今、何かおっしゃった?桜子さん」
「おほほ・・何でもありませんわ、お母様、お洗濯ですね、桜子も手伝いまぁす」
 同じその頃、三都葉の車を見送った桜子が、そんな不穏な事を呟いているなんて、西原は知る由も無かった。



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2008.07.21(22:39)|jealous princessコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
こんにちわ、凌さん!
コメントありがとうございます
楽しみにしていると言って頂けて凄く嬉しいです
セリフだけで進めているので、おかしな部分も多々ありますが、大きな心で見てやってくださいねっ!
2008.07.21(14:00)|未分類コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・海辺の岩場
登場人物・・・海の国の第3王子 順也(今は人間)
        海の国の第2王子 翔也(人魚)



「翔也兄さんっ!」
「順也っ!!会いたかったぞ!」
「翔也にぃさぁぁぁぁぁぁんっ!」
「わぁぁぁっ、急に降ってくんなぁぁ・・・ガボッ!!ゲホッ、ゲホッ・・・・っ!」
「んんっ、相変わらず翔也兄さんは泳ぎが下手くそだぞっ」
「煩ぇ!人間になったオマエに言われたくねぇよっ!ほら、掴まれ、とにかくオマエは陸に上がれっ」
「んん、海の中が気持ち良いから、翔也兄さんに摑まったままでいいぞっ」
「そうか、じゃあこのままな、どうだ?元気だったか?人間に苛められたりしてねぇか?」
「んんんっ!大丈夫だぞっ、みんな凄く優しくしてくれるぞっ」
「そうか?ならいいんだけどな、三都葉って魔法使いは大丈夫だって言うけれど、それだけじゃ本当か分からねぇし、桜子の魔法はまだ使えなくて様子も直接見れねぇから、ずっと心配してたんだぞ」
「ん?どうしてだ?『元気だぞっ』ってちゃんと手紙で書いたぞっ」
「オマエの手紙は、何時も何時も本当に『元気だぞっ』だけだろうがっ!あんなんじゃ訳分かんねーよっ!」
「んん、そうなのか?」
「そーだよっ!仕方ねぇから会いに来たんだっ!こんな掟破り、見つかったら兄貴と桜子に殺されるんだからなっ!」
「でも、俺は翔也兄さんに会えて嬉しいし、これで良かったぞっ!」
「ちっ、暢気なこと言ってんじゃねょっ!あっ、ほらズリ落ちてんぞっ!もっとしっかり摑まってろ!」



場所・・・海辺の岩場に下りる小道
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        ケント 召使



「わっ、足元は意外と真っ暗ですねぇ、順也様、よく走って下りていけますね」
「あんなに急いで、順也は何処に行くつもりなんだ?」
「そうですね・・この先は海しかありませんしねぇ、あっ、優希様が順也様と出会われたのもこの先の岩場でしたね」
「そうだったな・・見失いそうだ、急ぐよ、ケント」
「あっ、優希様、そんなに急ぐと転び・・」
「うわぁぁぁぁ!!!」
「ああっ、だから言ったじゃないですか、大丈夫ですかっ?」
「痛つつ、大丈夫・・・でも、順也をすっかり見失ってしまったな」
「そうですねぇ・・・あっ!あそこにいらっしゃいますよ」
「えっ、何処?」
「あそこ、一番奥の大岩の上ですっ!」
「えっ、岩の上?何処っ!?」
「わぁぁ!飛び込みましたっ!」
「ええええええっ!!」
「ああっ!しかも飛び込んだ先でっ!」
「先でっ!?!」
「・・・あ・・いえ・・・・っ」
「何?ケントッ!!順也が溺れているのっ?何処っ!?」
「いえ・・・そうじゃなくて」
「無くて何っっ?!」
「お・・・男の人と抱き合っています・・・・」
「なにぃぃぃ?!あぁぁぁぁぁぁ!!!見つけたっ、!!こらっぁぁぁ!順也っ!!その男は誰っ!?今すぐ離れなさーーーーいっ!!!!!」


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2008.07.21(13:54)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
前回分、後ろ数行分削除。
書き直しました。
毎度、ご迷惑おかけします(><)



 立ち聞きまでして頑張らされたお陰で、本家が今とても大変状況になっている事が分かった。
 後援者が離れてしまい、そのせいで本家は金銭的に困窮して敷地を手放さなければならない。
 それはもの凄く大変な事だとは思うけれど、じゃあ、それを何とかする為に自分が何か出来があるかというと、正直何も無い。
 言ってしまえばお金の話だし、それこそ十億単位の話しらしい。
 西原が出せるお金なんて、順也との二人暮らしの為にコツコツ貯めた100万円位がせいぜいで、何の足しにもなりはしないだろう。
 でも、このまま話しが進んでしまったら、あの赤い線で囲まれた場所はどうなってしまうのだろう?
 順也が楽しそうに遊んでいた愛情深く綺麗に手入れされた庭や、キラキラと透き通った水の池や、池に棲む偉そうな金魚の金ト。
 総てが無くなってしまうと考えると、西原は何だか悲しくなって、酷く胸が苦しくなる。
 それにその昔、本来家元になる筈だった史也の身代わりを御家元が買って出てくれた。
 そのお陰で順也の両親は結婚出来て、その結果順也がこの世に誕生する事が出来たのだ。
 順也を始め、智也や翔也がこの世に存在しているのは、言ってしまえば御家元のお陰だ。
 好きでは無い女性と結婚して、継ぎたくも無い家を継ぐ。
 どうしてそんな思い切った事が出来たのか、その時の御家元の気持ちは理解できないけれど、その行為が今の順也の存在を守ってくれた事は確かだ。
 感謝してもしきれるものではない。
 その御家元が困っているのに、何も出来ない自分が西原は酷く歯がゆかった。

 桜子も三都葉も、放っておけないという気持ちは同じらしく土地が売られてしまう前に、そうさせない方法を考えてみると言っていた。
「優希ちゃんは心配しないでいいのよ、さっきの盗み聞きで働いてくれたからもう十分だわ、後は私達で考えてみるから」
「しかし、相談された訳では無いから難しいですねぇ・・・まさか我々がいきなりお金を出しますと言っても受け取っては貰えないだろうし、あの実意味に一等地の土地の代金となるとおいそれと出せる金額でもないしねぇ・・」
「いっそこちらに『お金貸〜して』とか気軽に相談してくれれば話もし易くなるんですけれど・・・」
「あの家族の中の誰のセリフですか?そんな事はまず有り得ないでしょう」
「でも、順也ちゃんが継ぐかもしれない家が落ちぶれて行くのを黙って見ている訳にはいきませんし、何か絡めてで考えてみますわ」
 しかし、立ち聞きの結果を受けてコソコソ立ち回らなくてはいけないので中々難しいらしい。

「はぁ・・・もう寝よう」
 月を見上げて、自分の無力さをシミジミと噛み締めて拭いているうちに、濡れた髪の毛も何となく乾いた。
 ドライヤーなんかかけたら暑いし、順也を起こしてしまうかもしれないし、もうこのまま寝てしまおうと西原は思う。
 残りのミネラルウォーターを飲み干して縁側から部屋に戻り、朝稽古の為に目覚ましを5時半にセットする。
「暑いから仕方ないけど、朝方は冷えるから掛けておこうね」
 また掛け布団を蹴飛ばしてしまっている順也にもう一度それを掛け直して、西原も横に敷いておいた自分の布団に潜り込んだ。

 何時の間にか母屋も静かになり、明りを消した順也の部屋はシンと静かな夜の気配に包まれる。
 目を閉じると、すぐ傍に順也の規則正しい寝息が聞こえてきて、その心地良い気配に西原はウットリと幸せな気持ちになる事が出来た。
 順也がそこにいればもう他に何もいらない。
 それだけで西原の世界は満たされて、幸福な気分の中で完結してしまうのだ。
 反対にもしそこに順也がいなければ、西原の中身は何も無くなり、この世に存在する事すら出来なくなってしまう。
 西原にとっての順也は、本当に世界の総てだった。
 もしこの世に順也がいなければ・・・
 そんな仮定はしたくもないけれど、ウトウトと眠くなった意識の波間にフトそんな恐い考えが浮上する。
 結果論でしかないけれど、そんなあってはならない最悪の状況から自分を救ってくれた御家元が困っているのを、放っておく訳にはいかない。
―――やっぱり何か、御家元と本家の為に、俺が出来る事を探さなくちゃ・・・
 後援者とか、経済事情とか、地所の売却とか、そんな事は自分が口を出せる問題ではないけ。
 だれど、諦めず他の事で何か探してみようと思い直しているうちに、西原の意識は深い眠りに落ちていった。

 その夜、夢を見た。
 緑に包まれ、明るい日が差すあの本家の庭で、大人になった順也が楽しそうに金トにエサをやっている夢。
 やっぱり池の水はキラキラと透明で、よく手入れされた庭には綺麗な花が咲き乱れている。
 順也は家元になっていて、自分は家元になった順也の秘書という設定で、周りにはやはり楽しそうな皆もいて、本当に本当に幸せな夢だった。
―――ピピピピ・・・ピピピピ・・・
 長い夢だった気がしたけれど、次の朝、目覚ましの音を聞いて布団の上に起きた時には、断片的にしか覚えていなかった。
 いつかそれが本当になればいい・・・
 目覚ましの音にも気付かずに、幸せそうな寝顔を見せている順也をどう起こそうか考えながら、西原はその記憶の断片を大切に心の奥に仕舞った。


まったくBLにならないまま、尻切れな感じで終了。
複線の補完にお付き合い頂き感謝。
以下、自分へのメッセージ。
複線の張りすぎ自粛だ、ゴルアァァ!!



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2008.07.20(09:01)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・優希の部屋のバルコニー
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        海の国の第3王子 順也(今は人間)
        

「順也、そんなところで何をしてるの?」
「月を見てるんだぞ、今日は満月だからお月様がまん丸だぞ」
「ああ、そうだね、綺麗だね」
「んっ、オマエみたいに綺麗だぞっ!」
「あはは・・ありがとう、でもそんな薄着で外にいたら夜は寒いよ、おいで部屋に戻ろう・・ほらこんなに冷えちゃって、もうベッドに入ろうね、俺が暖めてあげるよ」
「んっ・・・あのな、優希」
「ん?何?」
「俺なっ、今日はオマエとエッチ出来ないから自分の部屋で寝るなっ!」
「え?自分の部屋っ??そんなのあった???」
「欲しいって言ったら、『たまには1人で寝たいわよね、息子がしつこくてごめんなさいねっ』って言って、優希のお母さんが準備してくれたぞっ」
「はぁ?母さん?はぁぁ????」
「別にしつこいのはいいけど、今日はそうだと困るからそこで寝るぞっ」
「えっ!ちょっと待ってっ!!困るって何で?」
「んんっ、それは気にしないでくれよなっ、じゃあな、優希、おやすみなさいっ」
「わぁ!!!ちょっと順也っ、本当にその部屋どこにあるのっ!?」


場所・・・大公爵邸裏庭
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        召使  ケント



「うううううう・・・・」
「ちょっ、優希様、何でこんな裏庭でしゃがんで泣いているんですか?」
「うううう・・・ケントォォォ・・・だってぇ・・あそこぉ・・・」
「あそこって・・・ああ、順也様の新しいお部屋ですね、奥様がお客様をお迎えする為の別邸を順也様が頂いたんですよね、いいですよね、あそこ、海も良く見えるし、中も凄く豪華だし」
「うううっ、どうして俺が知らない事をオマエが知っているんだぁぁ」
「えっ!?だって夕飯の時に決まって、優希様はお仕事でさっき帰ったばかりじゃないですか、お話する機会はなかったですよ」
「ううううう・・・」
「そんな、泣かなくても、寂しいならお訪ねになればいいじゃないですか、まだ明りも点いているし、起きていらっしゃるみたいですよ」
「うううう・・・さっき行ったら、帰れってって言われたぁぁ・・」
「はぁ・・・あははは・・・一体どうしたんでしょうね、順也様は・・・あの手紙を受け取って以来、ちょっと落ち着きが無いですよね」
「手紙?ああ、何時ものお兄さんからの・・・確かにそうかも、何が書いてあったんだろう?ケントは知ってるの?」
「さぁ?聞いても順也様は教えてくださいませんし・・・」
「まさかっ!!!兄からとか言って昔の恋人からだとかっ?!それで俺とはもう一緒に寝たくないだとかっっ!!」
「そ・・、それは無いと思いますけれど・・・落ち着いてください、優希さま・・あっ!!!」
「えっ?何っ?何か心当たりがるの?」
「いえっ、そうじゃなくてあれ順也様ですよね、部屋を出て海の方へ下りて行きますよっ」



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2008.07.19(08:05)|人魚姫コメント(1)トラックバック(0)TOP↑
「お母さん、桜子さん、お風呂お先に頂きました、あの、俺そろそろ部屋に戻って寝ますね」
「あら、優希ちゃん、もう寝るの?まだ10時よ」
「はい、順也が明日の朝も稽古をするって言っていたんで、今日は早く寝て、明日早起きします」
「あら、残念だわ、三都葉先生も居るし、美味しいお菓子があるから、これから皆でお茶にしようと思っていたのよ」
「すみません、桜子さん、でももう歯も磨いた後ですから」
「気にしなくていいのよ、順也ちゃんの分も取っておくから、明日二人で食べてね」
「うふふ・・優希ちゃんはともかく、順也ちゃんはちゃんと起きれるのかしら?」
「あはは、でも起こすように頼まれてるんで、一応頑張ってみます・・・あっ、お茶の準備、手伝いましょうか?」
「いいのよ、後は私達がするわ、おやすみなさい、優希君」
「おやすみなさい、優希ちゃん、今日も沢山お手伝いしてくれてありがとう、とても助かったわ」

「あぅ、部屋がちょっとお酒臭いよ、順也」
 PM10:15
 西原が順也の部屋の襖を開けると、中からアルコールの匂いが漂ってきた。
 発生源は勿論布団の上の順也で、酔って暑いのか掛けておいた布団を全部蹴飛ばして、枕を抱き締めながらスヨスヨと気持ち良さそうな寝息を立てている。
 庭がバーベキューのせいで騒がしいのと煙たいから、クーラーを付けて窓を閉め切ってしまっていたのだけれど、そのせいですっかりお酒の匂いが籠もってしまっているのだった。
「窓、開けるよ、もう外も静かになったからいいよね?」
 西原は寝むっている順也にそう小声で断わってから、布団をキチンと掛け直し、締まっていた窓を開け放した。

 開けた窓から入り込んでくる、少し生暖かいけれど、自然の夜風が心地良い。
 西原は縁側に腰掛けて、持って来たペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら、シャワーで濡れた髪をタオルでゴシゴシと擦って乾かした。
 母屋の方からは、人の動く気配と一緒に、時折楽しそうな笑い声が夜風に乗って聞こえてくる。
 家元と田淵はとっくに帰ってしまったけれど、桜子と三都葉は泊まっていくことになったので、何時までも賑やかだった。
 酔い潰れている順也は別にして、確かに寝るには少し早い時間。
 それなのに、せっかくお茶に誘って貰ったのを断わって悪かったかなぁ、と賑やかな声を聞きながら思う。
 だけれど、何だか気分が落ち着かなかったので、今日はもう1人になりたかった。
 落ち着かない理由は勿論、さっき台所で桜子と三都葉が話してきかせてくれた話のせいだった。

 混乱した西原を落ち着かせる為に三都葉が煎れてくれたコーヒーは、自分で言うだけあって、やたらに薫り高くて美味しかった。
「あれ?これってここにある豆と道具で入れたんですよね?何でこんな味になるんですか?」
「ははは・・コツがあるんだよ、企業秘密だけれど、特別に優希君には今度教えてあげよう」
 それを台所の大きくは無いテーブルを囲んで飲みながら、西原は桜子と三都葉から、二人が知っている話を聞いた。
 有名な剣道宗家である新古心流の、一応まだ跡継ぎと見なされている鷹也が、覚醒剤中毒で海外の病院へ入院するという噂を聞いたのは三都葉だった。
 三都葉の家も剣道をしている人間が多くて、その人脈を経由して噂が伝わって来たらしい。
「本家の方々には厳しく箝口令を敷いた筈なんですけれどねぇ」
「人の口に戸は立てられないと言いますもの、仕方ないですわ」
「えっ・・・あの、それじゃあ順也の事とかも噂に・・」
「ああ、それは大丈夫だよ、そんな事までは伝わってないから」
「そこまで細かく噂になっておたら、その場にいて覚醒剤中毒の鷹也さんを警察に通報しなかった三都葉先生が、こんな所で呑気に似合わないエプロン姿を披露なさっている筈ありませんわ」
「あはは、まったくです、まぁ、私にエプロンが似合わない事なんて、もう直ぐ新妻ななる予定のあなたが似合わない事に比べれば、大した問題でもないでは無いですけれどね」
「まぁ・・ホホホホホ・・ねえ、優希君はどっちが似合わないと思うかしら?」
「あはははは・・・遠慮無しで答えなさい、どっちだい?」
「えっ!似合う方でなくて、似合わない方ですかっ・・・・うううう・・うう・・すみません、俺には決められません・・・・」
 もしかしたら、順也が覚醒剤を打たれた事も人の口に上っているのかと西原は心配したのだけれど、実際は有名な剣道宗家の家で『そんな不祥事があったらしい』という曖昧な噂が、面白おかしく囁かれているだけらしかった。
「ははは、まあいい・・・その後に、あの敷地を売りたがっているという噂が流れてね・・まさか、翔也に事実かどうか聞くわけにもいかなし、取りあえず桜子さんには知らせておいたんですけれど」
「ほほほ・・・覚えてらっしゃい、それで心配していたところに、御家元がいきなり尋ねてくるからまさかと思いましたけれど、優希君のお陰ではっきりしましたわ、噂は本当でしたのねぇ」



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2008.07.18(23:02)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
「あの、失礼します、優希です・・・えっと・・お茶の交換に来ました」
「あら、ありがとう優希ちゃん、こちらに頂戴、後はお母さんがやっておくわ」
「はい・・・あの、他に何か御用はありませんか?」
「うふふ、気が利くのね、でも今は大丈夫よ、ありがとう」
「お菓子とか・・あっ、晩御飯とか」
「ありがとうございます、優希君、でも急にお訪ねしてしまったのだし、直ぐにお暇しますからお構いなく」
「あっ、はい・・え・・と・・」
「何だ?優希、誰かに用事があるのか?」
「いっいえっ!!無いですっ、失礼しましたっ!」
 いくら桜子と三都葉に背中を蹴られて強制されても、まさか本当に立ち聞きなんて出来るはず無い。
 なので、苦肉の策で頼まれもしないのに客間にお茶の替えを持って行ったのだけれど、それを入り口で小枝子に渡す僅か30秒の間に何かが分かる訳も無かった。

「何か分かったかしら?優希君」
「当然、分かったよね、優希君」
「あっ・・はは・・えっと・・・」
 特に収穫も無いまま意気消沈した西原が台所に戻ると、そこで待ち構えていた桜子と三都葉が期待に目を輝かせて詰め寄ってきた。
 お皿を洗っていてくれていて、西原のマネをしてエプロンをした姿でそれぞれ手にスポンジとフキンを持っているのだが、二人のセレブな雰囲気と笑えるくらいに合っていない。
「あ・・・そういうの似合いませんね」
 成果を聞かれても特に答える事は無いので、ついいらない感想を先に口に上らせると、
「あのね、優希君・・」
「貴方もまったく似合って無いわよ・・」
 結構グサッとする指摘を受けてしまった。

「何もって、何か気付いた事はあるだろう?部屋の雰囲気とかはどうだった?」
「え・・えっと、皆ちょっと沈んだ顔でテーブルを囲んでいて、翔也さんも飽きないで真面目な顔をしていました」
「翔也もねぇ、興味の無い話なら抜け出て来そうなものだし、かなり深刻な話しみたいだね」
「優希君、テーブルの上には何かあったのかしら?」
「あっ、はい・・、多分、本家のお屋敷の図面が広げて置いてありました、田淵さんが大きな紙袋を持っていたんで、その中に入っていたんだと思います、それで、敷地の金トのいる池の庭と、御家元の部屋のある離れの在る方半分が、グルリと赤いサインペンで囲んでありました」
「何か書類みたいなものは無かったかしら?」
「え・・・、ああ、おじさんと智也さんが、分厚い紙の束を持って読んでいました、おじさんのは見えなかったけれど、智也さんのは表紙に・・『JJFホールディングス』って書いてありました」
 流しの前が年長の嫁二人で一杯なので、仕方なく西原は拭き終わった食器を、棚に戻す事にする。
 そうしながら、無いながらも客間で見てきた僅かな情報を、聞かれるままに話してみた。
「うううう・・・役に立たなくてすみません」
 しかし、やっぱりロクな話は出来なくて、欲求不満の二人からまたケチョンケチョンに罵倒される事を覚悟するけれど、
「そんな事ないわ、大収穫よ、行って貰って良かったわ、やっぱり心配していた通りね」
「なかなか良くやったぞ、優希君、顔だけが賢そうというのは撤回する、やっぱり本当に賢いんだねぇ」
 しかし何故だか褒められてしまい、西原はお皿を棚に載せる中途半端なポーズのままポカンとしてしまった。

「JJFホールディングスっていうのは、大手銀行が親会社の簡単に言ってしまえば不動産屋よ、都心の条件の良い土地を買ってそこにマンションや商業ビルを建てるの」
「えっ、それってどいう事ですか?えっと、御家元があの本家の土地を売ってマンションを建てるっていう事ですか?」
「ああ、噂を聞いて心配していたんだけれどね、どうやらそうらしいね」
「噂って・・三都葉先生が聞いたんですか?そんな事一体誰から?」
 聞いたことの無い会社の名前やら、あの立派な家を切り売りしてしまうね耳に水の話しやら、それを知っていたらしい桜子や三都葉の態度やら、思いもしていなかった話の展開に西原は混乱してしまう。
「ちゃんと全部説明するから落ち着いてね、優希君」
「洗い物も済んだし、コーヒーでも飲みましょうか、失礼して私が煎れさせて貰いますよ、これは結構得意なんです」
 思わずお皿を持ったままの姿勢で考え込んでいると、二人から気遣うように声を掛けられた。


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2008.07.17(09:21)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・停泊中の船の甲板
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        海の国の第3王子 順也(今は人間)
        召使 ケント



「順也様、またご家族からのお手紙ですか?」
「んっ、そうだぞ!優希がそこのソファーで読めって言ってたぞっ」
「そうですねぇ、今日は日差しが強いですからそれがいいですね、せっかくの順也様の白い肌が日焼けしたら大変です、優希様は三都葉様とお話中みたいですね、先に何か冷たいものを、お好きなハチミツ水でもお持ちしましょうか?」
「んっ!飲みたいぞっ、ありがとうな、ケント君」
「いえいえ、どういたしまして」

「はい、順也様、ハチミツ水と木苺のクッキーですよ」
「んっ!ありがとうなっ」
「いえいえ・・・あれ?何だか嬉しそうですね、何か手紙に良い事でも書いてありましたか?」
「んんっ、何でもないっ、内緒だぞっ!」
「あはは、それは立ち入った事を聞いて申し訳ありませんでした、でも顔に『良い事があった』って書いてありますから、きっと優希様にもバレてしまいますよ」
「んんんんんっ!本当かっ?」
「あはは、本当です」
「じゃあ、今日はもう頑張って嫌な顔をしているぞっ!」
「あっ・・いえ・・それは、せっかくの優希様とのお出かけにどうでしょう?」
「んんっ!してるぞっ」
「ああ・・・優希様、楽しみにしていらしたデートなのに、申し訳ありません・・一体、何を一生懸命隠そうとしてるんですか、順也様?」
「だから内緒だぞっ!」
「うっ、そうでしたね・・」
「なぁ、ケント君」
「うう・・はい?」
「次の満月は何時だ?」
「はい?満月ですか?え・・と、確か明日の晩がそうですよ」
「んっ!そうか、ありがとうなっ」
「いえいえ、それがどうか・・・あっ、優希様がいらっしゃいましたよ、順也様、出来れば笑顔でお願いします」

「お待たせ、順也、さあ、出発しようか・・・って、何でそんな恐い顔なのっ?!」
「んんっ!内緒だぞっ」
「あう・・申し訳ありません、優希様」


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2008.07.16(00:03)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・港
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        海の国の第3王子 順也(今は人間)
        王のお抱え錬金術師 三都葉



「優希様、これから舟遊びですか?」
「あっ、これは三都葉殿、こんにちは、港でお会いするなんて珍しいですね、もしかして何か順也に御用ですか?」
「ええ、彼のご家族から手紙が来ていたので持ってきました」
「んんっ!兄さん達からかっ?何時もありがとうな、三都葉さんっ」
「いいえ、どういたしまして、今日もお元気そうですね、こちらでの生活で何か不自由な事はありませんか?」
「何も無いぞっ!優希は凄く優しいぞっ!」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
「んっ、安心してくれよなっ、なぁ、優希ぃ、手紙読んででいいか?」
「勿論だよ、ここは日が強いから、先に船に乗って天蓋の下のソファで読んでおいで」
「んっ!」
「わぁっ!走らないでっ、橋げたから落ちるよっ」

「本当に順也君は元気そうですね、これならご家族にも良い連絡が出来ます、彼の自称お姉さんは恐い人で、順也君に何かあったら、私は何をされるか分からないんですよ」
「あっ・・・三都葉殿の魔術の兄弟弟子の方ですよね、三都葉殿の下で魔術を修行する筈の順也を俺の恋人にしてしまって、やっぱりまだ怒ってらっしゃいますか?」
「ええ・・・はは、そうですねぇ、その事事態はそうでも無いんですけれど、その、岩場でいきなりアレでしたので、優希様のご人格はまだ信用されていないみたいです」
「ううう・・・人格・・・すみません、夢の中で逢っただけだと思っていた片想いの相手が裸でいきなり抱きついてきたものですから、訳が分からなくなってしまって・・・まさか順也が魔術の修行中で、近くでご家族が見ているとは思いもしませんでした」
「近くというか・・・まあ、そうですね・・魔術で覗いていて声が掛けられるような位置でも無かったので、仕方無かったのですけれど・・・いきなりアレはちょっとアレでしたね、私も、どうしてもっと早く迎えに来なかったんだと、物凄い勢いで怒られました」
「ううううう・・・俺のせいですみませんでした」
「ははは、まぁ、もう済んだ事です、今の順也君が幸せならそれでいいと思いますよ」
「はい、ありがとうございます・・あの、私がご家族に書いた手紙に対する返事は、今回も無いのでしょうか?」
「それは、まだちょっと無いですねぇ」
「そうですか、また許して頂けないんですね」
「そうですねぇ・・、まぁ、アレを見られた後なので仕方ないでしょう、気長に頑張ってみてください」
「うううう・・気長に頑張ります」


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2008.07.15(08:19)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
 来客の相手は秘書の田淵を引き連れた家元の御園春也だった。
 相変わらず和服姿で腰が低く、玄関に迎えに出た西原に向って、「先日は息子の鷹也が大変失礼しました」と謝罪しながら頭を下げてなかなか上げないので、西原はうっかり着けて出てしまったエプロン姿で、ほとほと困り果ててしまった。
「御用があるならこちらから伺いましたのに」
 突然の思いがけない来客に慌てて母屋に戻って来た史也達が慌てて出迎えて、庭でのバーベキューはお開きになってしまった。

「もうっ!悪い方ではでは無いですけれど、間が悪すぎますわっ、せっかく家族水入らずで楽しんでいましたのにっ、何で急にお見えになったのかしらっ?」
「本当ですねぇ、来るなら是非先に一報欲しかったですねぇ、それが節度のある大人のマナーってものですよ」
「私、そりゃ順也ちゃんがいる間は仕方なかったですけれど、やっと智也さんの横に座って飲み始めたばかりでしたのよっ」
「私も、順也君がいなくなって、やっと翔也がまた相手をしてくれるようになったばかりだったんですねれどねぇ」
「しかも、まだお父様にお酌していませんでしたのに・・」
「あっ、それ、私は最初にしましたよ、でもお母上には機会が掴めなくてまだだったなぁ」
「はぁ・・きっと気の利かない嫁って思われましたわ、しかも、上がりこんで来るなんて、こちらはバーベキュー真っ最中でしたのよっ!」
「本当に、匂いで分かりそうなものなのに、空気の読めない人間は困りますねぇ」
史也と智也と翔也、それに小枝子は家元の相手に母屋へ戻ってしまい、残った西原と桜子と何故か三都葉も一緒になって、バーベキューの後片付けをする事になった。
 余り後片付けには似つかわしくないイメージの桜子と三都葉に気を遣って、西原は自分1人で片付けると申し出たのだけれど、『1人だけエプロンなんかして良い嫁振るなんて10年早いっ!』と異口同音に叱られてしまった。
 べつに『振って』エプロンをしているわけではないのだけれど・・・
 真剣に家事の好きな西原は何だか不満だったけれど、それを口に上らせる勇気がある筈もなかった。
 かなり楽しみにしていたらしいバーベキューを邪魔された二人は、酔っているのか、本気で怒っているのか、大人気ない文句をブーブーと言い続けて、雰囲気が剣呑なことこの上ない。

 風向きがこっちに来る前にさっさと片付けて、順也の部屋に戻ろう。 
 不機嫌の矛先がこっちに向いたら、どんな酷い八つ当たりの目に合わされるか分からない。
 これまでの体験を思い出し脅えた西原は、出来る限り気配を消して、手よりも口が忙しい、たまに残ったワインで自棄酒をしている二人を尻目に、黙々とテーブルの上を片付けていた。
「ねぇ、優希君、お家元は何の用事で訪ねていらっしゃったのかしら?」
「玄関にお出迎えしたんですよね、何か言っていませんでしたか?」
「え・・・さ、さぁ?」
「さあって、気の無い返事ねぇ」
「何かは言っていただろう?まだ物忘れをする歳でもないだろうし、しっかり思い出しなさい」
 しかしそんな努力も虚しく、同じタイミングでクルリとこちらを向いた二人に、ジッと睨まれ質問責めに遭ってしまう。
「あっ・・・あの、何か順也に会いたかったみたいです、もう寝てしまったって言ったら凄く残念がっていました・・あと、おじさんや皆に謝りたい事があるって言っていました」
 お客様の事を影でコソコソ話すのは行儀が悪いと思ったけれど、自分の身可愛さについ家元を客間に案内した時の会話をバラしてしまう。
「態々尋ねてきて順也君に話しですか・・ちょっと気になりますねぇ」
「しかも謝りたいって、色々謝らなくちゃならない事があるのは当然ですけれど、いきなり今で無くてもって感じですわよね」
「何か引っ掛かりますねぇ、さり気無く覗きに行きましょう」
「放っておくと悪い事が起きそうな気がしますわっ、通り掛った振りをして廊下で立ち聞きしましょうっ」
 すると、二人はどれだけ家元の訪問理由が気になるのか、さっさと盗み聞きをする方向で意気投合してしまった。

 大企業の社長令嬢と、由緒正しい医者一族の息子。
 二人共、そこいら辺の人間よりは生まれも育ちも余程お上品な筈なのに、どうしてそういう話になるのか、西原にはまったく理解出来ない。
 話しの内容が気になるのなら、後でその場に居た誰かに聞くのが常識だろし、そんな事が分からない歳でもないだろう。
「あっ・・・行ってらっしゃい」
 取りあえず、そんなお行儀の悪い話に付き合う気にはなれいので、胸元で小さく手を振りながらそう言うと、
「何を言ってるのっ?!優希君が立ち聞きするに決まっているでしょうっ?この私が出来ると思って?」
「君がさり気無く覗かないで誰が覗くんだ?私かっ?!ははは・・まさかそんな事が出来るわけないだろう」
「ええええっ!嫌ですっ!そんなの絶対にしませんよっ!!後で誰かに聞けばいいじゃないですかっ」
「それじゃあ、遅い気がするのよっ!本当にボンヤリしてるわねっ、三男の嫁はっ!」
「手遅れになると困るんですよっ、分かりませんか?賢い顔が見掛け倒しの三男の嫁っ」
「ええええええええっ!」
 しかし、やたらに偉そうな二人に意味深で飛んでもない任務を押し付けられて、そのまま両脇を羽交い絞めにされて、母屋までズリズリ連行されてしまったのだった。


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2008.07.14(22:20)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・優希の寝室
登場人物・・・大公爵の御曹司  西原優希
        海の国の第3王子 順也(今は人間)



「順也、おはよう」
「ん・・・おはよぉ、優希ぃ・・・おはようのキスしてぇ」
「はいはい、今日も順也は甘えん坊さんだね、おはよう(チュッ)」
「ん〜・・・まだちょっと眠いぞ」
「うん、昨日の夜も沢山無理させちゃったものね、ごめんね、腰は大丈夫?辛くない?」
「んんっ、大丈夫だぞ、後、気持ちよかったから別に謝らなくていいぞっ」
「あはは、ありがとう・・あのね、俺はこれから出掛けなくちゃいけないんだ、だからもう起きて、その前に朝ご飯を一緒に食べようね」
「ん・・・そうなのか・・」
「そんな顔しないで、お昼までには帰ってくるから、午後は二人で過ごそう、そうだっ、何処かに出掛けようか?何処がいい?」
「ん〜、海っ!!」
「あはは、順也は本当に海が好きだね、いいよ、それじゃあ船を出させてそこで二人でゆっくりしようね」
「んっ、いいぞっ」
「さあ、それじゃあ服を着替えてご飯にしよう、今日もいい天気だから順也の好きな海の見えるテラスに準備させたよ」


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2008.07.14(08:07)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
「よっこいしょ、順也、大丈夫?今、パジャマ出すから待っててね」
「んん〜、大丈夫だぞぉ〜〜、まだ寝ないぞぉ、庭でもっとワイン飲むぞ〜ぉぉ」
「駄目だよっ!もうっ、明日は学校なのに、こんなに酔っ払っちゃってどうするのっ?」
「んんん〜・・・大丈夫っ、明日の朝はぁ・・学校にも行くしぃ・・早く起きて西原と稽古だってするぞぉ・・」
「するぞぉ・・って、俺はいいけど、順也は起きれるの?」
「んん〜・・西原がぁ・・ちゃんと起こしてくれよなぁ・・・ぁ」
「はぁ・・・俺が起こすのが前提ななんだね」
「ん〜・・っ起こしてくれよなぁ・・っ」
「はいはい、分かったから今日はもうパジャマに着替えて早く寝ようね」

 今年の順也の夏休みの後半は、本家に関わること、演舞や、鷹也や、入院や、言わば家の事情のせいですっかり台無しになってしまい、それも今日で終わってしまおうとしていた。
 何時もは必ず一度は家族旅行に行っていたのに、思えば今年は、旅行どころかプールにすら行っていない。
 それを負い目に感じているのか単に甘いだけなのか、自分もワインを飲みたいと駄々を捏ねる順也に家族の誰もが強い事を言えず、西原も手を拱いているうちに、見る見る順也は酔っ払ってしまった。
「順也、次の日曜日は俺と遊園地のプールに行こうな、ちょっと季節外れだけれど、まだまだ泳げるし、ジェットコースターも乗れるぜ?ああいうとこの焼きソバ、不味いけど上手いんだよなぁ」
「ばーか、次の土日は俺と桜子さんと順也は旅に出るんだよ、新幹線で仙台とかどうだ?順也、牛タンが美味しいぞ」
「何で兄貴ばっかり泊りがけなんだよっ、じゃあ俺も土日でどこでも連れていくぞっ、何処がいい?何処でも言え、順也」
「何処でもいいなら、俺と仙台で牛タンでいいよな?順也」
「なんだよ、それっ!ずりぃぞっ、兄貴っ!」
「んん、今度の日曜日は部活の練習試合だから、午後からならいいぞっ」
「はぁ?午後だけかよ」
「午後・・午後・・仙台まで行くには短いな」
 酔いも手伝って競って甘やかせる二人の兄の間に座り、パクパクお肉を食べながら、ゴクゴクとワインを飲んで、気付けば翔也の膝に頭を智也の膝に脚を乗せて、スヨスヨと幸せそうな寝息を立てていた。
 でもニヘェとだらしなく顔を緩めた兄二人の膝で15分もした頃に目を覚まして、もっと飲むと駄々を捏ね出したので、西原が寝かしつける為に抱えて部屋まで連れてきたのだ。

―――チュッ・・・
「はい、おやすみのキスだよ、おやすみ順也、また明日ね」
「おやすみぃ・・・西原ぁ・・・また明日なぁ・・」
 パジャマに着替えさせて、布団を掛けると、順也は直ぐに幸せそうな顔をして、安らかな寝息を立て始めた。
 まだ時間は8時を少し回ったばかりで、酔っても可愛い順也の寝顔を眺めながら、西原はこれからどうしようかと悩んでしまう。
 桜子はネクタイピンを失くしたことを、
「ホホホ・・また今日のスーツに合う新しいのを選んであげるから気にしないで」
「あっ、あの、その事ですけれど新しいのはいいですっ、前のを失くしてしまったのは俺の責任だし、自分でちゃんと合うのを用意しますっ」
「まあ、優希君が自分でって、何処で用意するつもりかしら?」
「え?何処で・・・えっと、駅前のイ○ー・ヨ○○堂?」
「ホホホ・・優希君、寝言は寝てるときに言いましょうね、未来の私の親族としてイ○ー・ヨ○○堂で食事会に来るつもりかしら?」
「うっ・・ううう・・・・スミマセン」
 本当に快く許してくれた。
 他の皆も桜子からその話を聞いて、誰も高価な物を失くした西原を責めたりはしなかった。
 なので、まだ皆が居る庭に戻る事に何の心配も無いのだけれど、皆がお酒を飲み始めてしまったので、庭での催しはバーベキューというよりは酒宴に近い雰囲気に変ってしまっていた。
「優希も飲むか?」
「そうね、澄ました顔をしていないで優希君も飲みましょう」
「いっいえっ!俺はいいですっ」
「ああ?俺の酒が飲めなのかよ?」
「飲めませんっ!俺は中学生ですよっ」
 帰るとまたそんな風に絡まれるのは分かっているし、順也も寝てしまい、お酒を飲まない子供の自分がそこにいるのも何だか場違いな気がして、台所に引っ込んでボツボツ片づけを始めようかなぁ?などと西原は考える。 

 片づけをしてから皆がこっちに帰って来た時の為に、お茶漬けでも準備しておこう。
 考えた結果そう決めて、順也を起こしてしまわないようにそっと部屋を出て、話し声が賑やかな庭を横目に母屋への渡り廊下を渡る。
 台所に入り、まずは洗い物をしようと、エプロンを掛けて流し台に向かった途端に、
―――ピンポーン
 西原以外は無人の母屋に、来客を継げるチャイムの音が鳴り響いた。


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2008.07.13(20:15)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑
場所・・・海辺の岩場
登場人物・・・海の国の第3王子 順也(人魚)
        海の国の第1王子 智也(人魚)
        海の国の第2王子 翔也(人魚)
        深海の魔女 桜子 




「順也ちゃん、もう一度言うわよ、よく聞いて、この青い実が『人魚が人間になれる実』よ、陸に上ったらまずこれを飲んでね」
「んっ!何度も聞いたから分かってるぞっ、桜子姉さん」
「それから、こっちはもっと大切よ、この赤いのが『人間が人魚に戻る実』、順也ちゃんが人魚に戻る時に必要だから無くさないようにしてね、これは本当に一つしかないわ、首飾りにしておいたから絶対に外さないで、海に帰りたくなったら直にこれを飲んでね」
「んっ!それも何度も聞いて分かったぞっ」
「大切な事なんだから何度でも真面目に聞きなさいっ、でないと陸に上がる事は許さないぞっ」
「んん・・ごめんなさいだぞ、智也兄さん、だから優希にもう一度合わせて欲しいぞ」
「まあ、順也ちゃん、なんて可愛いお顔、本当に優希君に恋をしてしまっているのね」
「ケッ!あんな金ピカ王子っ、見掛け倒しに決まってるぜ、わざわざ会いに行くだけ無駄・・・痛ぁぁぁぁ!!!ウニを投げるなっ、ウニをっっ」
「んんっ!翔也に兄さんは煩いぞっ!」
「俺は心配してやってるんだろうがっ!人間のしかも男なんて上手く行くはずねぇだろうっ!」
「んんんっ!!」
「痛ぇぇぇぇぇぇっ!その怒ったトラフグを何処から出したっ!?」
「はぁ・・順也がそこまで本気なら仕方ない、そうしなければ俺達人魚は海の泡になってしまうからな、上手く行かなくても何でも気が済むまでやってみるしかないだろう・・・でも、せめて『人魚に戻る実』がもっとあれば俺達も一緒に行けるんだけれどな」
「何で一つしか作れねぇんなんだよぉ、桜子って意外とへっポコ魔女だよなぁ・・・おごわぁっ!!」
「あら、ごめんなさい、またしても手が滑ったわっ!」
「だからっ!水晶はマジで洒落になんねぇから投げんの止めろぉ!どいつもこいつもポンポン物を投げてよこすなっ!」
「でも、そう言われても本当に『人魚に戻る実』は作るのが大変なのよ、それ一つで力を使い果たしてしまって、一時は私もろくな魔法は使えないわ」

「ここの岩陰に隠れて待ちましょう・・・私の兄弟弟子の三都葉が迎えに来てくれるわ、彼に任せておけば陸にいる間も順也ちゃんは安心だし、しかも国王のお抱え錬金術師だからきっと直ぐに優希君にも引き合わせてくれるわ」
「何から何まですみません、桜子さん・・・いいか順也、陸にいる間は三都葉殿の言う事を良く聞いて、危ない事は絶対にしないようにな」
「んっ!分かったぞっ」
「あっ!誰か来たぜ、三都葉って奴か?」
「いいえ、違う人間みたいですわ、見つかると面倒ですから一度海に潜って隠れましょう」
「んんんんっ!あれ、優希だぞっ!青い実を飲んで俺もう行くぞっ!」
「あっ、ちょっと待ちなさい、順也っっ!!」
「順也ちゃんっ、三都葉が来るまで待ってっ!」
「おいこらっ!順也っ待てっっ、オマエ服着てねぇーぞっ!!!」


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2008.07.13(09:19)|人魚姫コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
 順也と西原がマンションから家に帰って来たお昼過ぎ、桜子は入れ違いに『友達と会う約束があるから』と、何処かへ出掛けてしまっていた。
 バーベキューまでには戻ると言っていた言葉通りに帰ってきたらしい。
「おっ、おっ、お友達との約束は終わったんですか?バーベキュー始まってますっ、智也さんが寂しそうに待っていましたよっ、メッメロン、食べますかっ?」
 今の盛大な独り言を聞かれてしまった。
 ネクタイピンを無くしてしまった事をちゃんと話すと決めた西原だったけれど、まだ心の準備が出来ていないので、『もしかしたらバレた?』と怯えて、物凄い勢いで挙動不審になってしまう。
「約束は済みましたわ、智也さんには今挨拶してきましたのよ、バーベキュー美味しそうですわね、メロンもいいですけれど何も食べてませんの、お腹が空きましたわ」
「あっ・・・・あはは・・そうですか、じっじゃあ、今バーベキューを焼きますねっ!」

 焦った西原はその辺にある準備した物を乱暴にお盆に乗せて、台所から逃げ出そうとした。
 だけれど、勘の良い桜子がそんな事で誤魔化せる筈けもなく、
「それで、何を失くしたのかしら?優希君?」
「エッ?・・いえっ・・・別に・・・」
「はっきりおっしゃいっ」
「ううう・・・桜子さんに頂いた子犬のネクタイピンです、すみませんでした」
 あっという間にバレてしまい、西原は両手に一杯の食材を抱えたまま、桜子に向かって深々と頭を下げた。


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2008.07.12(07:57)|dropped somethingコメント(0)トラックバック(0)TOP↑