「優希君」
「はい」
名前を呼ばれて西原も正座した背筋を伸ばす。
わざわざ話しって何だろう?
まさか、自分と順也の関係について何かを言われるのだろうか?
つい一ヶ月ほど前、大切な息子さんを泣き落としで手篭めにしてしまいました。
決して清廉潔白ではない自分の行いを思い出して、西原が状況も弁えずビクドキしていると、
「順也があんな可哀想な目に合っているのに、何でもっと怒らないんだと・・・優希君の目には私はさぞかし酷い親に見えているでしょうね」
しかし、史也はまったく関係の無い事を言う。
「えぁ?」
余りに自分の脳みその考えている内容と掛け離れた事を言われてしまい、西原は気の抜けた返事をしてしまった。
「酷い親?おじさんが、どうしてですか?」
順也を将来安心して任せて貰える様になる為に、史也の前では何時も一番良い自分を見せなければいけない。
その絶対命題を思い出し、西原は間抜けた返事をした自分を慌てて立て直した。
出来るだけ賢くしっかりとして見える様に、でも、史也の言っている事が分らずに疑問を投げかけると、史也は珍しい自嘲的な笑みを浮かべる。
酷い親と言えば、お金は出すけれど口も手も出さない西原の父親の方がよっぽどで、同じ放任主義でも肝心な所では愛情を持って順也達に接する史也を寧ろ西原は尊敬していた。
史也に父親像の憧れの念を抱いても、マイナスのイメージなんか持った事は無い。
「例えば・・優希君や桜子さんがしてくれた様に、もっと家の人達に腹を立てたりするのが普通だとは思いませんか?順也がされた仕打ちを考えれば、それが妥当な親の反応です」
西原の質問に、史也は静かに、でも断言するように答える。
それはそうかも知れない。
昨日は家にまで来て寝込みを襲われて、今日は麻薬を打たれて、未遂とは言え強姦までされかけた。
一番可愛がっている末っ子。
何の非も無い順也が受けた仕打ちを考えれば、桜子の訴えたとおりに、「何で一緒に怒ってくれないのか」というのが普通だろう。
しかし、西原はこの家に強く出る事の出来ない史也の立場も知っている。
その昔、史也は先代の一人娘である万理絵との婚約を破棄して、一緒に決まっていた時期家元の座も放棄して、順也たちの母親である小枝子と結婚する為にこの家を出たのだった。
そのせいで、昔は居た筈の、お弟子さんや後援者の人達も随分と減ってしまったらしい。
「でも・・・それは、昔のいきさつも有るし、仕方の無い事だと思います」
教えて貰った事なのだから話題にしても問題はないのだろうけれど、余り楽しいとは言えない史也の過去に何処まで踏み込んでもいいものなのか?
西原が戸惑いながらもそう言うと、
「そうですね・・・私にとっては仕方の無い事ですけれど、そのせいで、順也や優希君に迷惑を掛けてしまうのは間違った事です」
史也は静かに首を振る。
「それでも、私はこの家を見捨てる事は出来ないし、順也の受けた仕打ちを声高に抗議する事も出来ません・・・優希君は順也と本当に仲良くしてくださっているから、今回の事ではさぞ順也の身を心配してくれて心を痛めてくれたのだと思います、だからせめて、どうしてそこまで私がこの家を庇わなければならないのか、その理由を、迷惑を掛けてしまった優希君にはお話ししておきたかったのです」
自分はもしかして大変な事を打ち明けられようとしているのだろうか?
自分に語りかけてくる史也の、何かを決心した様な様子に、西原は本当に自分がそれを聞いてしまっていいものかと、オロオロしてしまう。
でも、意見を求める為に部屋の隅に座ってこちらを見ている智也に視線を送ると、『いいから聞いておいけ』と、やはり視線で返されてしまうのだった。
なので覚悟を決めて、西原は息を呑んで居住まいを正した。
―――どんな酷い話を聞いても俺はおじさんの味方です!だから順也を俺にください!
覚悟のどさくさに紛れて、今はいらない事まで考える西原の前で、「若い優希君から見たら、昔の事過ぎて申し訳ないのですが」と前置きしてから、史也は酷く遣る瀬無い事を思い出すように話し始めた。
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「はい」
名前を呼ばれて西原も正座した背筋を伸ばす。
わざわざ話しって何だろう?
まさか、自分と順也の関係について何かを言われるのだろうか?
つい一ヶ月ほど前、大切な息子さんを泣き落としで手篭めにしてしまいました。
決して清廉潔白ではない自分の行いを思い出して、西原が状況も弁えずビクドキしていると、
「順也があんな可哀想な目に合っているのに、何でもっと怒らないんだと・・・優希君の目には私はさぞかし酷い親に見えているでしょうね」
しかし、史也はまったく関係の無い事を言う。
「えぁ?」
余りに自分の脳みその考えている内容と掛け離れた事を言われてしまい、西原は気の抜けた返事をしてしまった。
「酷い親?おじさんが、どうしてですか?」
順也を将来安心して任せて貰える様になる為に、史也の前では何時も一番良い自分を見せなければいけない。
その絶対命題を思い出し、西原は間抜けた返事をした自分を慌てて立て直した。
出来るだけ賢くしっかりとして見える様に、でも、史也の言っている事が分らずに疑問を投げかけると、史也は珍しい自嘲的な笑みを浮かべる。
酷い親と言えば、お金は出すけれど口も手も出さない西原の父親の方がよっぽどで、同じ放任主義でも肝心な所では愛情を持って順也達に接する史也を寧ろ西原は尊敬していた。
史也に父親像の憧れの念を抱いても、マイナスのイメージなんか持った事は無い。
「例えば・・優希君や桜子さんがしてくれた様に、もっと家の人達に腹を立てたりするのが普通だとは思いませんか?順也がされた仕打ちを考えれば、それが妥当な親の反応です」
西原の質問に、史也は静かに、でも断言するように答える。
それはそうかも知れない。
昨日は家にまで来て寝込みを襲われて、今日は麻薬を打たれて、未遂とは言え強姦までされかけた。
一番可愛がっている末っ子。
何の非も無い順也が受けた仕打ちを考えれば、桜子の訴えたとおりに、「何で一緒に怒ってくれないのか」というのが普通だろう。
しかし、西原はこの家に強く出る事の出来ない史也の立場も知っている。
その昔、史也は先代の一人娘である万理絵との婚約を破棄して、一緒に決まっていた時期家元の座も放棄して、順也たちの母親である小枝子と結婚する為にこの家を出たのだった。
そのせいで、昔は居た筈の、お弟子さんや後援者の人達も随分と減ってしまったらしい。
「でも・・・それは、昔のいきさつも有るし、仕方の無い事だと思います」
教えて貰った事なのだから話題にしても問題はないのだろうけれど、余り楽しいとは言えない史也の過去に何処まで踏み込んでもいいものなのか?
西原が戸惑いながらもそう言うと、
「そうですね・・・私にとっては仕方の無い事ですけれど、そのせいで、順也や優希君に迷惑を掛けてしまうのは間違った事です」
史也は静かに首を振る。
「それでも、私はこの家を見捨てる事は出来ないし、順也の受けた仕打ちを声高に抗議する事も出来ません・・・優希君は順也と本当に仲良くしてくださっているから、今回の事ではさぞ順也の身を心配してくれて心を痛めてくれたのだと思います、だからせめて、どうしてそこまで私がこの家を庇わなければならないのか、その理由を、迷惑を掛けてしまった優希君にはお話ししておきたかったのです」
自分はもしかして大変な事を打ち明けられようとしているのだろうか?
自分に語りかけてくる史也の、何かを決心した様な様子に、西原は本当に自分がそれを聞いてしまっていいものかと、オロオロしてしまう。
でも、意見を求める為に部屋の隅に座ってこちらを見ている智也に視線を送ると、『いいから聞いておいけ』と、やはり視線で返されてしまうのだった。
なので覚悟を決めて、西原は息を呑んで居住まいを正した。
―――どんな酷い話を聞いても俺はおじさんの味方です!だから順也を俺にください!
覚悟のどさくさに紛れて、今はいらない事まで考える西原の前で、「若い優希君から見たら、昔の事過ぎて申し訳ないのですが」と前置きしてから、史也は酷く遣る瀬無い事を思い出すように話し始めた。
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